悪魔を憐れむ歌

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 酒と小便の臭いが漂う仄暗い真夜中の路地裏に、何故か修は酔って転がり、誰かに殴られたような、唾を吐きかけられたような、罵声を浴びせられたような、とにかく幾つかのネガティブなことが、この身に起きたような記憶はあるのだが、果たして実際はどうだったのか、さっぱり思い出すこともできずに、世界から除け者にされたような気分だけがはっきりしていて、修はすぐに立ち上がることはできなかった。 「楽しんでますかな」  短い間、修は気を失っていたのだろうか、飲み過ぎて頭が痛いのは事実だが、気がつくと目の前に男が立っていて、修には一瞬で現れたように見えた気がしたが、その男が修に話しかけてきたのである。  見ればスリーピースの仕立ての良さそうなスーツを着て、山高帽まできっちりと被ったその男は、その落ち着いた声音といい、どこからか時代を間違えて来たような紳士と言ってよい風情だった。  しかし修はそれに大きく反応することも無く、何かを口にして答えるでも無く、その紳士の顔を、道端に転がったまま、ジロリと睨んだ。
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