天使の幸福論

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天使の幸福論

「はあっ、はあ……っ!」  ようやく校門が見えてきた。  俺は固く閉ざされた門扉の縁に手を掛け、一気に身体を持ち上げて乗り越える。 「ぐ」  着地の衝撃が足裏から胸へと抜けて声が漏れた。  けれど今はそんなことに構っていられない。息も整えず部室棟へと駆ける。  靴を履いたまま校舎内へと入った。  真っ暗な廊下には消火栓の赤い光だけが不気味に光っている。異世界に迷い込んだような、表情の違う日常風景に一瞬足が竦んだ。  いや、ビビってる場合かよ。  額から滴る汗を手首で拭って、窓から差し込む月明かりを頼りに階段を駆け上る。 「遠藤(えんどう)……!」  彼女の笑顔を思い浮かべる。  胸の奥底から湧き上がってくる温度を力に変えて、俺は必死で屋上を目指した。
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