天使の幸福論

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「――え」  橋川の背中が固まる。その背中の向こう側の光景に、俺も絶句した。  月明かりに浮かび上がる二つの人影。 「新井、と、なんで遠藤まで」  橋川は困惑を隠せていない。俺もだった。  彼の口ぶりから察するに、俺に届いたものとは内容と差出人が逆だったんだろうか。 「来てくれてありがとう」 「騙しちゃってごめんね」  新井の凛と響く声と遠藤の穏やかな声が屋上に鳴る。  二人の美少女はフェンスの向こう側に並んで立っていた。あと一歩踏み出せば、地上へと一気に転落する位置だ。 「訊きたいことがあるの」  新井の台詞の意味がわからない。けど、このまま黙っていても駄目だ。 「訊きたいこと?」  彼女たちを刺激しないよう数歩進んで、固まってしまった橋川の隣に並んだ。  俺の前には新井、橋川の前には遠藤がいる。 「難しいことじゃないよ」  遠藤はやわらかく言った。  彼女との初めての会話がこれか。こんな状況じゃなきゃ喜べるのに。 「何でも答えるから」  俺がそう言うと、少しの間が生まれる。  そこでふと遠藤と目が合わないことに気付いた。  彼女はずっと俺の隣を見ている。
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