ホワイトデー・お返し

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 蓮の部屋のベッドで二人揃ってダラダラと漫画を読みながら、何気ない感じで話し掛ける。 「そういやさー、ホワイトデーって外国ではやんないらしいなー」 「ふーん」  少しだけ俺に触れていた胸がピクリと反応した。 「海外ではお返しみたいな文化はなくてさー、あげたい人があげるだけなんだって! 合理的だよなー」 「へぇー」  気のない返事をしているようだけど、ほんとは動揺してるんだろ? 俺にはわかる。 「だから俺もさー、それでいいかなって思って。ホワイトデーなんてさ、どっかの会社が物売るために始めたキャンペーンみたいなもんだろ」 「ほぉー」  蓮はごろんと仰向けに転がり、手にしていた漫画を投げるように置くと体を起こした。 「んー? どしたー?」 「ションベン」  ちらっと俺を見た悲しそうな瞳に、俺は勝利を確信する。  ザマミロ、ザマミロ、ざまぁみろ!!  これはこの前のお返しだ!!  先月の十四日……そう、よりにもよって当日に、「バレンタインなんてめんどくさいだけだろ」って言ってのけたお前へのお返しだ。  お陰で俺は、デパート四軒ハシゴして、六時間超も吟味して選び抜いたチョコを渡せずに持って帰るハメになったんだ。  自分の家で半泣きで鞄開けたら、なぜかもう一箱チョコが入ってた。「好きだよ。いつもありがとう」って、蓮の字で書かれた手紙付きの。  落として上げるなんて趣味悪過ぎんだよ!!  嬉しさやら悔しさやらでいっぱいになって、泣きながら食べたチョコの味は忘れない。  だから今日は絶対にやり返してやる。あの気持ち味わってみろ。  俺は静かに起き上がると、用意していたマカロンを取り出して、そっとデスクチェアの上に置いた。ここなら今日俺が帰った後、すぐに気がつくはず。  マカロンを包むのは、蓮がいつか見に行きたいと言っていた場所に似た柄のラッピング。ネットで見て一目惚れして、開店前から並んでようやく手に入れたものだ。俺の努力を知ったとき、嬉しさと罪悪感で咽び泣くがいい。  シメシメと思いながら振り返ると、いつの間に帰ってきていたのか蓮がそこに立っていた。 「おっ……おう、早かったな」 「ションベンだけだからな。ちょっとそこどいて」  蓮は俺を押しのけるように腕を伸ばすと、机の上に置いてあった紙袋を手に取った。 「何それ?」 「ん。お返しだよ。ホワイトデーの」 「……へっ?」  よく見ると、俺がバレンタインのときに選んだのと同じ店のロゴが入っている。 「な、何で……?」 「結局渡してくれなかったけど、俺のために用意してただろ? どうだった、あれ? 旨かった?」 「めっちゃ旨かった……じゃなくて!! 何でだよ?! 知ってたの?!」  蓮はクスッと笑うと、笑顔のまま俺を見下ろした。 「鞄開けた時見えたからな。あとこれも」  呆気なくデスクチェアを引かれ、色鮮やかな花畑が顔を出す。 「これフランスの……綺麗だな。わざわざ探してくれたんだ?」 「何でだよ……」 「お前のことは何でもわかるよ。仕返ししたかったんだろ? お生憎様」  蓮の唇がおでこに触れる。 「俺を出し抜こうだなんて百年早いんだよ。真っ赤になっちゃって。そういうとこほんと可愛いよな」 「なっ……!!」 「おいで。こっちで一緒に食べよ?」  あぁ、もうズルい!! ズルすぎる!! 「いつもありがとな。大好きだよ、朔」  サラッと言ってのける余裕そうな表情はムカつくはずなのに、腕を引かれてついつい隣に腰掛けてしまった。  丁寧に包み紙を開ける手元を見ながら、俺は悔しさを声に滲ませる。 「お、覚えとけよ……」 「忘れないよ。こんなに可愛い朔の顔。……はい、あーんして」  目を細めて笑う蓮の手の中のマカロンを囓りながら、来年のバレンタインこそはやり返ししてやると心に誓った。  
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