緊急会議

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緊急会議

 翌日、なるべくいつも通りを装って俺は出社し、いつも通りに榊原さんのいる店に急いだ。  霊田さんはやはり事務所の手前で足を止め、俺はひとりで事務所に入った。 「どうも、まいど」  今日は仕事ではないのでその挨拶はどうかと思うが、クセと、霊田さんをごまかすためには仕方が無い。  先に着くようにしてもらっていたので、昨日訪ねて来ていた嶋田さんという女性は既に事務所にいて、榊原さんと向かい合っていた。 「ああ、影谷さん。おはようございます」  榊原さんが立ち上がり、俺は頭を下げた。 「すいません。こんなことをお願いしてもうて。でも、ほかに良い場所を思いつかんで」 「いえいえ。いい判断だったと思いますよ。ここは私が結界を張っていますので、入ってこられないんですよ」  俺は胃の辺りがきゅう、となるのを感じた。  女性が立ち上がり、俺を見て言う。 「嶋田夏帆です。昨日もご挨拶はしたのですが、すぐに、中身が変わったようになってしまって」  俺は頭を掻いた。 「ああ、すいません。自分も、会ってすぐから記憶がないんです」  聞いていた榊原さんが、考えながら口を開く。 「影谷さんは、憑かれているという自覚はあるんですよね」 「はあ。いい人みたいに思えたんで、まあいいかと……」  嶋田さんは「え」という風に口を開け、榊原さんは苦笑した。 「いい人、ねえ。  まあ、始めから話を伺いましょう。それからこちらのお話を聞いた方がわかりやすいでしょうから」  そう言われ、俺たちは来客用ソファーに座って、引っ越してから今日までの事を話し始めた。それを聞いていた嶋田さんは眉を寄せていき、榊原さんは真剣な表情をしていたが、聞き終わると、 「もう危ないところだったようですよ、影谷さん。  なんというか、おおらかと言うか、危機感が無いと言うか……」 と言って溜息をついた。  次は自分だと、嶋田さんが話し始める。  それによると、霊田さんと仮に呼んでいる人は早瀬洋一郎という名前だそうだ。嶋田さんとは大学の時に同じサークルに入っていて、話はしたことがあるそうだ。その後自分の家の近く、つまり今俺が住んでいる部屋へ引っ越してきて、よく近所でもばったりと会うようになったらしい。  しかしその後早瀬さんは事故で亡くなったそうだ。  この前の休日、嶋田さんは出かけていたら知らない人──俺──に親しげに声をかけられ、誰かと思い出そうとしていたら、早瀬さんと同じような話し方や独特の目つきをしたので、 「早瀬君?」 と言ったら嬉しそうに笑い、 「やっぱりわかってくれたんだね。もうすぐ上手くいくよ。だから待ってて。予定通りに、結婚して、子供も作って、幸せになろうね」 と言ったそうだ。  嶋田さんは気持ち悪くなって、その場から逃げたらしい。  でもその後気になって、早瀬さんが住んでいたマンションを訪ねてみたところで、散歩から帰ってきた俺と会ったということだった。  俺も嶋田さんも榊原さんもしばらく黙って、考えた。 「霊田──いや、早瀬さん。もうすぐ上手くいくって何のことなんや。予定通りにって、そんな予定ありましたん?」  嶋田さんは激しく手と首を横に振った。 「とんでもないです!顔は知っているし、会えば挨拶はしましたけど、友達というほどにも親しくはありませんでしたよ」  榊原さんは短く嘆息した。 「勝手に早瀬さんがその気になっていたんでしょう。近所に引っ越したのも偶然では無く、ストーカーだったのではないですか」  嶋田さんは顔を強ばらせ、俺も眉を寄せた。 「あきませんやん、そんなこと」 「いや、影谷さん。あなたも他人事じゃないですよ。たぶんですが、早瀬さんはあなたの体を乗っ取って、あなたとして生き直していくつもりですよ。嶋田さんと結婚してね」  嶋田さんも衝撃を受けたような顔をしていたが、俺もショックだった。  それとついでに、こんな時だが嶋田さんのショックの意味も少しだけ気になった。早瀬さんの思惑に衝撃を受けたのか、使うのが俺の体というのに衝撃を受けたのか……。  それに気付いているかのように、榊原さんは俺を見て小さく笑った。  
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