抵抗

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抵抗

 この建物の周囲には結界が施されているそうで、悪い物は入ってこられないようになっているらしい。それでも最期の抵抗にと暴れるものがいるので、今は袋の中に入れて札で覆っている呪物となっているキーホルダーと写真を袋から出した後、気を強く持っているようにということだった。 「悪いことをしたとか、同情すべき点があるとか、考えたらだめですからね。いいですね、影谷さん」 「わ、わかってる。わかってますけど、何で名指しですねん」 「影谷さんがかなりお人好しなのは明らかだからに決まってるでしょう」 「む……反論できひん」 「まあ、そういうところ、好きですよ。ただ、霊相手にはしてはいけないってだけです」 「……おおきに」  伯父さんは下を向いてごまかすように咳払いし、嶋田さんは吹き出しかけ、榊原さんは澄ました顔をしている。俺は間違いなく、赤い顔をしているだろう。 「ごほん。では、始めます」  伯父さんが気を取り直したように言って、それが始まった。  伯父さんがお経か何かを唱え出すと、しばらくして庭の木々がざわざわと揺れ始めた。そして、晴れていた空に厚い雲が集まり始める。  朗々とした声が続き、護摩壇の火が燃えさかる。  それを聞き、見ていると、意識がどこかに持って行かれそうな気がしてきた。寝そうになっている時とかに近い。  その後は、どこか夢の中のようだった。夢と自覚して見ている夢、明晰夢とかいうあれだ。  袋からキーホルダーと写真が出されて、何やら書かれた紙で包まれる。  だがその一瞬で、俺の意識は落ちた。  いや、微かに意識はあって、様子はぼんやりと限定的にわかる。ただ、自分では指一本動かせない状態になった。  俺は立ち上がり、伯父さんに飛びかかっていった。 「影谷さん!?  ああー! そうか、服!」  俺を羽交い締めにしながら榊原さんが叫んだ。  それを聞いて、嶋田さんがはっとしたように叫ぶ。 「あ! 洗濯物をたたんでたのは!」 「脱がそう!」  俺は、 「霊田さんがたたんでくれたのは全部やん! じゃあ全部!? パンツも!? 嫌や、やめて! 嶋田さんもおるのに、それだけは嫌や!」 と叫びたかったが声にはならず、心の中だけで叫び、泣く思いだった。  ジタバタできはしなかったが、俺を操っている早瀬さんが暴れている。どちらを応援するか迷う思いだ。 「え、脱がすんですか!?」  嶋田さんが躊躇した。  伯父さんが立ち上がって俺の前にずんずんと近づいて来るので俺は身構えた。目で、 「脱がさんといて、頼むから」 とお願いしてみたが、伝わっただろうか。 「白目を剥いてるな」  だめらしい。  恥ずかしいが、死ぬよりマシだ。  覚悟を決めた時、額に何かをぺたりと貼られた。その瞬間、体は重く、熱くなって、静かに床に寝かされた。  ゴオオ、と燃えさかる炎の音が大きくなったのが聞こえる。  外では雷鳴が轟きだしていた。  そして伯父さんの声ははっきりと言葉として聞き取れないようになり、俺はインフルエンザでもうろうとしていた時のように、夢なのか現実なのか区別がつかないほどになってきた。  一緒に俺も成仏させられるのか。いや、俺は死んでないから、成仏させられるのはおかしい。  そう考えるというより、願っていた。  ひたすら熱い。まるで燃やされているようだ。誰か、助けてくれ!  そう思った時、本当に意識がなくなった。
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