無謀な挑戦

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「ねえ、あなた。本当に大丈夫なの?」  その日の夜、洋子は不安を隠せない面持ちで武に尋ねた。 「あの通り、親父はピンピンしてるだろ?心配することはないさ」 「でも……」  洋子は依然として憂いを含んだ表情のままだ。洋子は5年前に母親を亡くしている。あれだけピンピンしていたのに一度救急車で病院に運ばれたが最後、あっけなく息を引き取ってしまった。88歳だった。70を過ぎたら1年後のことはわからない。80を過ぎたら1か月先のことはわからない。90を過ぎたら1週間先のことはわからない。精三に、義理の父に、武の父親に長生きしてもらうためには無理をさせてはいけない。 「親父がな、前に言ってたことがある」  武が穏やかな面持ちで口を開いた。   「この世に生まれてきたからには子孫を残せと。そして子孫のために財産を残せと。そしてできることなら生きていた証に名前を残せと。少し古い考えかもしれないが、親父は言ったことは実行した。子孫を残し、そして私たちが困らないぐらいのひと財産を築いてくれた。私だって親父には長生きしてほしい。でも、親父はもういつまで生きられるかわからない年齢だ。やりたいことができるうちに、させてあげたいと思っている」 「でも…………」 「不安はあるさ。でもな、これをやっておけばよかった、あれをやっておけばよかったっていう悔いを残して人生の幕引きをしてほしくないんだ」  武はそう語る。 「…………わかったわ。あなたがそこまで言うのなら出てもらいましょう」  洋子はそう言い、寝室の電気を消した。  
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