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いざ、レース開始
お昼休み前、50m自由形の最終組の競技が終わった。
圧巻のレースだった。3レーンを泳いでいたのが辰野で、4レーンを泳いでいたのは腹筋が6つにしっかり割れている20歳ぐらいの若者だった。ドルフィンキックを打って同時に浮き上がると両者譲らぬデッドヒート。水しぶきが舞う中で二人はぐんぐんと後続を引き離しゴールへと近づいていく。両者がタッチをしたその瞬間、電光掲示板には
4レーン 24秒85
3レーン 25秒02
と表示された。50前後の歳でこの泳ぎ。ひょっとしたら義父はとんでもない先生のもとで指導をしてもらっていたのではないか?と洋子は直感した。
「それでは続きまして、男子400m個人メドレーの競技を行います」
アナウンスの声の直後、ホイッスルが鳴らされる。精三が泳ぐのは1レーン。プールサイドに一番近いレーンだ。何かあったときにも対応しやすいレーンを泳ぐと知り、洋子は安堵した。どうやら400m個人メドレーの競技はこの1組だけのようだ。泳ぎ切るだけでも大変な競技なので敬遠した人も多かったのだろう。
ピッピッピッピッ!
ホイッスルの音が響き渡り、選手たちが皆スタート台の隣に立つ。
ピーッ!
長いホイッスルの音が鳴り響くと、2レーン以降の皆が飛び込み台へと昇った。精三よりも三回りも四回りも、下手したら60歳ぐらい若い男たちがクラウチングスタートの構えを見せるその一方で、精三はゆっくりと足を水につけ、水中へと潜る。そして飛び込み台についているグリップを握り、スタートの構えをとった。
「テイク・ユア・マークス!」
スターターの言葉と同時にピストルが構えられる。そして合図音が鳴った。
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