いざ、レース開始

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 選手たちが皆勢いよく飛び込んで水中に潜りドルフィンキックを打つ中、精三は壁を蹴って泳ぎ始めた。二回、三回とドルフィンキックを打って徐々に水面へと手を伸ばしていく精三。先頭を泳ぐ4レーンの選手との差はすでに身体4つ分以上の開いている。他の選手たちが豪快に水をかいて前へと進んでいく中、精三はゆっくりと、ゆっくりと両手で水をかきわけ、両足でキックを打ち、前へと進んでいく。  50mの壁を両手でタッチし、再びゆっくりと壁を蹴る精三。4レーンを泳ぐ選手はもうすでに100mのターンに差し掛かろうとしている。しかし精三はペースを崩さずに、そして確実に前へと進んでいく。動き自体は他のレーンの選手に比べてずっとゆっくりだが、ゴーグル越しのその視線は50m先の壁をしっかりと捉えているようだ。  壁を両手でタッチし、体を仰向けにして壁を蹴り出す。洋子が電光掲示板に視線を向けると、  1レーン 2分20秒64  と表示されていた。先頭を泳ぐ4レーンの選手は背泳ぎの終盤に差し掛かっている。精三が背泳ぎを泳いでいるうちには間違いなく周回遅れに なるだろう。しかし固唾を呑んで試合の行く末を見守る洋子にとっては、周回遅れになろうまなるまいがどっちでもよかった。 ーーとにかく、とにかく無事に泳ぎきってください……。  洋子は心の底から願っていた。
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