3,桜小僧

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3,桜小僧

深夜になり、消灯して暗くなった和室で、4人は寝袋で森次は布団で寝ていた。 静けさと暗さは都会の住人には慣れないのではと、眠りの浅い永青は礼奈のことを気にしながら闇の中を窺ったが、どうやら眠っているようで小さな寝息が漏れていた。 永青はトイレに立つふりをして、上着を羽織ってそっと建物の外に出た。 彼は幻想系の小説を書いているせいか、第6感が発達していることを自認していた。 いつもに増して眠れないのは、虫の知らせのせいだろうか。彼の脳裏には、先刻見た森次の不安の表情がこびりついていた。 何かある。何かが起こる。 いつになく心臓がドキドキするのを覚えながら、永青はしだれ桜へと歩を進めた。 月はだいぶ西へ傾いていたが、まだ未練ありげに桜を照らしていた。 うっかり足音を立てると壊れそうな静寂の中、息苦しくなって咳払いを一つした永青は、しだれ桜の垂れかかる花々の下に幽霊のように佇む人影を認めて、ハッと足を止めた。 幽霊が登場する話を作るからといって、彼は幽霊を信じてはいなかった。 その人影は、泊り客の誰かか、あるいは桜小僧か……。 永青は、桜小僧が宿坊に泊っている誰かである可能性を疑ってみた。 「誰だ、そこにいるのは!」 勇気を振り絞って発した永青の問いかけに答えはなく、桜の下の人影はゆらりと妙な動きをした。 黒い布を頭巾のようにかぶっているが、着ているのは紺の半纏…。 その人影は、森次に間違いなかった。 その瞬間、江戸時代の庭師と鼠小僧が、永青の頭の中で結びついた。 俺たちは騙されたのか? と永青は心の中で叫んだ。 桜の枝を無断で折る者には天罰が下ると、桜守の名にかけて断言しておきながら、その陰で桜小僧として裏切っていたのか? そう決めつけた永青は、森次に飛びかかった。 「おい、森次さん、何してるんだよ!」 森次の顔を真近で見た永青は、ハッとした。その目はとろんとして、覚醒していなかった。 森次の目を覚ますべく、永青は肩を叩いて呼びかけた。 やっと現実に戻った森次は、永青の姿を認めて驚いた。 「な、なぜここに!?」 無意識のうちに行動したことを知ると、森次は絶望したような声を出した。 「では僕はやっぱり桜小僧だったのか? あの人が言ったように、解離性同一性障害なのか?」 次第に事情が呑み込めた永青は、「あなたは桜小僧じゃないよ」と森次を落ち着かせた。 「あの人って?」
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