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「もう花は咲かさないよ!」
居酒屋で飲んだ帰り道。公園通りの桜が急に話しかけてきた。
「あたしは酔っぱらいがキライなんだ!」
僕はそこまで酔ってなかったけど、半ば八つ当たりっぽく桜に絡まれた。
「花見花見って。ウンザリなんだよ」
どうやらその桜は首相みたいなポジションで、今年が任期のラストイヤーらしい。
「あたしが桜長の間に大改革をやってやる。今年からは秋よ。花見ができぬよう、なるべく冬に近いほうがいいねぇ」
こうして全国の桜の頂点・桜長は、開花時期を秋に変更すると宣言した。なんでも、冬に咲かせるのは自分たちがしんどいのでギリギリの晩秋を選んだそうだ。
通りがかりの僕が急遽、日本を代表して桜長を説得する羽目になった。
「卒業、入学の思い出には欠かせないんだ」
「知らないね」
「“桜ソング”だって同じだよ」
「知るもんか」
「秋桜はどうなるのさ」
「え?」
最後の一言が刺さった。本家が秋に咲いたら秋桜の立ち場がない。
「コスモスかぁ。あの唄も好きだしねぇ」
で、一件落着。
《後日譚》
今思えば、桜長は酔ってたのかもね。
結局のところ僕は、酔っぱらい桜に絡まれただけ?
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