人殺しと最後の1ページ

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『突然こんなことを知って驚きかもしれませんが、私はすでに99人の人間を殺してきました。   そして、私は100人目を最後に、殺しを辞めるつもりなのです。  私は私の考えの元、今まで殺しをしてきましたが、この考えを誰にも話したことはありませんでした。  ならば最後に誰かに伝えることが出来たらと思い、この手紙を書かせていただきました。  これは私の自己満足に過ぎませんが、どうかお付き合いください。  まず私の罪を知った先生は何故、私が人を殺してきたのかと疑問に思ったのではないかと存じます。  これは私が相手を憎かったからなどでは一切ありません。  むしろその逆で、先程記述したとおり、私は愛しているから殺してきたのです。  私は昔から、死んでいる人間が好きでした。  たとえば江戸時代の武将、明治時代の文豪、みんな好きでした。  そのお陰で歴史のテストでは毎回良い点を取ることができ、先生に何度も褒めていただいたことを覚えています。  先生からすれば、死んでいる人間が好きという、私の考えは理解不能でしょう。  しかし、それは存外簡単なひとつの理由で説明することができます。  それは、死ぬことがないからです。  死んでいるのに、死ぬことがないというのは変に思われるかもしれませんが、私にとってこれはとても重要なことなのです。  人は皆、自分の好きな人が死んでしまうことを恐れます。  好きな芸能人などが病気に罹れば心配し、災害が起きて1番気になるのは家族の安全でしょう。   愛する人の死とは、今まであったものが喪失するということであり、私はこれが人一倍恐ろしいのです。  しかし、既に死んでいる人間に対してはどうでしょう。  当然ですが、死んでしまうかもと不安になることはありません。  このような理由により、死んでいる人間を好きになり、生きている人間とは接点を持たないようにするべきだと思ったのです。  私は14で両親を亡くしていたので、意識していれば人と必要以上に関わることはないと、当時は浅はかにも考えておりました。  しかし、気をつけていても学校に通っていれば必然的に人と会話する機会があり、知り合いもできます。    そして今から8年前だったでしょうか、遂に私にも友達ができてしまいました。  初めは1人ぐらいいても平気だと考えていましたが、その友達と遊ぶ内に、その友達の友達と知り合い、そのまた友達という風に大切な人が増えていきました。  すると、もともと臆病者の私ですから、もしかしたらあの子は明日、病気や怪我によって死んでしまうかもしれないと思うようになりました。  友達が増えるほどその恐怖は増長し、私は夜も眠れなくなりました。  毎日のように睡眠薬を飲み、それでも眠れなかった私は、あるとき妙案を思いつきました。  死んでしまえば、友達が死ぬかもと毎日不安になることはない。  友達を殺してしまえばよいのだ。  友達を殺すことは辛かったですが、不安が消えるのならばと思い、実行することを決意しました。  普段の私ならば、殺人など周囲にバレたらと思うととても実行出来ませんが、友達の死に対する不安に比べればなんてことありませんでした。  迷いなく行った殺人は、ミステリードラマで見たよりも存外簡単でした。  しかし不安が消えることは、決してありませんでした。 「もしもまた友達が出来てしまったら、どうするんだ。いや、また殺せばいいんだ。 しかし、そんなに殺しては、いつか必ず周りに気づかれてしまう。 周りにも決して気づかれないような計画で、細心の注意を払って行う必要がある。 あぁ、どうしたものか」  そんなことを考えて、ぼんやりと部屋にある本棚を眺めていたのですが、またもや私は妙案を思いつきました。  それは、推理小説を使っての殺人。  推理小説には基本、殺人のトリックが書かれています。  そして探偵が推理することで、犯人は白日の下に晒されます。  推理小説にもよりますが、犯人のトリックはほとんど完璧なことが多く、たった1箇所のミスによって証拠が残ってしまいます。  つまり、この1箇所のミスに気をつけて実行すれば、完璧なのです。  これ程分かりやすい殺人の教科書はないでしょう。  最後の探偵の解説さえ読めばよいのです。  私は遅読なので1冊読もうとすれば、とても時間がかかってしまいます。  しかし、順を追って読まないと気が済まないような先生と違い、最後の1ページから読んでも気にしない私はこの方法によって、短期間で多くの殺人トリックを学びました。  補足しますが、先生はよく小説は最後の1ページで驚くのが面白いのだと言っていましたが、私には理解できません。  結末を知っていても、面白いものは面白いはずです。  兎も角、推理小説のトリックを使い、この数年で私は99人の人間を殺してきたのです。  たくさんの殺人をしてきた私ですが、ひとつ、人を殺す前に決めていたことがあります。  それは、100人目として死ぬのは私だということです。  私の愛した人たちは、私の勝手により殺されたという事実に変わりはなく、それは決して許されることではないでしょう。  そこで、愛している100人目の人間に私は殺されようと決めたのです。  そして、その人間に私の罪を告白し、事件の真相を明らかにすることが、私に殺された人々に対するせめてもの償いであると考えております。  もうお分かりでしょうが、先生が私の愛している100人目の人間なのです。  私は既に、先生によって殺される方法を考えました。  今日の20時、先生の家からも見える大きな桜の木の下にいらしてください。  もし先生がいらっしゃらなければ、別の方法を考えようと思います。  しかし、先生に殺していただくことは決して諦めません。  私は先生に殺されるため、必ず参ります』 「あっ」  俺は思わず、持っていた手紙と封筒を床に落とした。  はじめは、99人殺したなどは狂言だろうと思っていたが、これは本当かもしれない。  例え自分が殺されるようではなくても、なんて恐ろしいんだ。  いや、相手は99人殺してきた人間だ。  俺が殺されない保証はどこにもない。  この手紙を無視したら俺は何をされるか分からない。  そもそも俺が殺すのか?  なぜ俺なんだ!  20時まではあと15分しかない!  頭では分かっていても、俺の足は凍ったように動かない。  俺を急かす秒針の音を聞きながら、震える手で手紙と封筒を拾おうとすると、封筒の中に白い紙が見えた。  そこで俺は封筒にまだ手紙が1枚入っていたことに気がついた。  最後の1枚を取り忘れていたのか。  これ以上不気味なことが書いてあったら堪らない。  俺は読むべきか迷ったが、20時まで時間もない。  結局手紙を封筒から取り出した。  そして俺はその最後の1枚を読み、再び驚いた。
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