8人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
ある日、俺が家に帰るとひとつの封筒が届いていた。
何か重要な手紙だろうかと思い、差出人の名前を確認しようとしたが、封筒には差出人の名前どころか宛名も『先生へ』としか書いていなかった。
住所が書いていないということは、直接俺の家の郵便受けに投函したのか。
少し不審にも思ったが、これはきっと俺の高校の生徒からだろう。
俺の家は高校から近く、登下校の際に通りかかる生徒も少なくない。
生徒の間では有名らしく、過去にはこの郵便受けに宿題を投函していった生徒もいた。
そのときは確か、ネットで注文した本はもう届いたかなと思い、夜中にポストを確認しに行ったら今日中で締め切りの宿題が入っていた。
学校の時点では宿題がまだ終わっておらず、その日の夜になって郵便受けに投函しにきたのだ。
どうやら提出期限の日付の内に提出したのでセーフにしてくれということらしい。
平然と提出を遅れる生徒や、未提出の生徒がいる中で、夜中にわざわざ俺の家まで来たことに驚き、思わず期限内に提出済みの欄にチェックをいれた。
今回もそんなことだろうと思い、ペーパーナイフで封筒を開けると、そこには予想外の内容が書かれていた。
『拝啓
梅の蕾も綻び始め、春の気配を感じられる季節になりました。
先生におかれましては、お変わりなくお過ごしでしょうか。』
丁寧な字で綴られたこの手紙は、文面からして恐らく卒業生からの近況報告だろうか。
それはとても嬉しい。
いつの卒業生からだろうかと想像しながら読んでいると、ふと、気になる文章が目に入った。
『愛する先生、ひとつ告白をさせてください。
私は、私の愛した人間を全て殺してきました。』
「は?」
冗談か?
兎も角、手紙を読み進めれば何かわかるかもしれない。
俺は再び手紙に視線を落とした。
最初のコメントを投稿しよう!