Ⅹ.ゼロ・オクロック

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Ⅹ.ゼロ・オクロック

 西本は私の身体をゆっくりと優しく引き離すと、スーツのポケットに手を入れて、何かを私に差し出した。  白い綺麗な包装紙に包まれた、長方形の箱のようだった。 「はい、これ誕生日プレゼント。間に合って良かった」 「え! こんな、いいのに……ありがとう」 「それ腕時計なんだけど、まだ動いてないんだ」  そう言うと西本はカーナビに目を遣った。私も釣られて見る。  デジタル時計は丁度「00:00」を表示していた。  どうやら私の誕生日は最高の形で終わったらしい。 「袋、開けてみて。時計動かそう」 「うん」  私は包装紙をほどくと丁寧に箱を開けた。中からはシンプルながら所々装飾が施された、ピンクゴールドの腕時計が現れた。 「可愛い!」 「そう? すんごい悩んだ甲斐があったわ! そこのさ、透明のやつ引き抜いて」 「うん」  透明の留具を外すと、秒針がチクチクと動き始めた。  時計が時を刻み始めたと同時に、西本が深く呼吸をした。  そして、口を開く。 「誕生日と記念日が一緒ってちょっと嫌だから言わなかったけど、日付が変わったから言うよ――」  まさか。 「――竹内、俺は竹内マオのことが好きだ。俺と付き合ってほしい」  来た。 「その時計が動き出した、この3月6日の0時0分。これを俺達が付き合い始めた時間にしたいんだ」  なんだこれ――。  なんだこのロマンチストは。らしくない、らしくない。  こんなの西本らしからぬ行動すぎて、最高すぎる。  私は脊髄反射的に言葉を告げていた。 「私も西本のことが好き」  そして今度は私の方から、西本の胸に飛び込んだ。  さっきとは反対に西本が私の背中をギュッと抱きしめる。 「……マオって呼んで良い?」 「じゃあアキトって呼んで良い?」  私たちは目を合わせると、照れくさいやら何やらで微笑んだ。  時計はチクタクと進んでいく。私たちの素晴らしい記念日を祝うように。  そしてきっと、これから先の幸せをずっと、見届けてくれるのだろう。    ■おわり■
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