Ⅱ.ゼロ・オクロック

1/1
前へ
/10ページ
次へ

Ⅱ.ゼロ・オクロック

 ベッド脇で横長のデジタル時計の表示が大きく変化した気がした。それを視界の端っこで感じ取った時、私は28歳になったのだと悟った。  改めて表示に目を遣る。案の定「00:00」が映し出されていた。  ――と思った途端、私のスマホは忙しそうに通知音を鳴らし始める。  別に驚くことじゃない。毎年の恒例行事みたいなものだ。 『マオ、おたおめー』 『早生まれずるいぞ、ようこそ28歳の世界へ』  こんな感じのLINEが次々と入ってきた。大学時代の友人グループ内の暗黙のルールで、とにかく誕生日へのレスポンスが早い。  私も友人の誕生日の時にはそうだが、もう数分前からメッセージをセットして構えている状態だ。そして日が変わったと見るや即送信。こんな感じのやりとりを、もう何年続けているやら。  大学時代の友人以外でも律儀に誕生日メッセージを送ってくれている友達がいた。ありがたい限りだ。中には既に子供がいるママもいるというのに、私なんかに構ってくれて。  そんな友人たちに、それぞれに合わせた返信をしていると、私の誕生日はあっという間に1時間が経過しようとしていた。  新たにメッセージがないかと確認してみたが、それ以上はなかった。  ……つまり、だ。  私が本当に「お誕生日おめでとう」を言ってほしい相手、同期のアイツからは、今のところ何のメッセージも届いていない。  最近、結構良い感じだったと思ったんだけどな……。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

52人が本棚に入れています
本棚に追加