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Ⅳ.平常運転?
今日は色々とやることもあったのだけれど、悶々として思うように作業が進まなかった。この午前中の不調は絶対にアイツのせいだ。
アイツがちょっとばかり気を利かせて、1階下の私のフロアまで来て「誕生日おめでとう」と発すれば全て解決するのだ。
……いや本当はそれ以上のことも望まないでもないけど、この際その一言さえ貰えれば、今日の私は幸せなのだ。
フロアの照明が順々に消えていく。
昼休みになって節電モードに入ったのだ。私もやおら動き出し、昼食を買いにコンビニへと向かおうとした――その時。
「竹内ーー!」
薄暗い中、私の席へと向かってくる姿が見えた。願望による妄想なんかではない。紛れもなくアイツ、西本だった。
「なあ竹内、今日の夜空いてる? この間話してた海鮮の店、予約取れたから行こうぜ!」
「え、今日の夜? うん、大丈夫……だよ」
「よっしゃ! 良かった! 今日は定時にあがれそう?」
「多分……大丈夫」
「オッケー、じゃあエントランスに18時ってことで!」
「あ、うん、わかった」
そんな会話を済ませると、西本は嵐のように去って行った。
今晩の約束を、あっさりと取り付けてだ。
……分かってる? 私、今日誕生日なんだけど。
誕生日ってこんなにあっさり抑えられちゃうものなんだっけ?
暖簾をめくり上げながら「やってる?」みたいな感じで誕生日の約束って出来ちゃうものなんだっけ?
……実際、約束出来ちゃった訳だけどさ。
なんか不穏な感じ。アイツ私の誕生日のことなんて、さっぱり覚えてないでしょう。だっていつもの感じだもの。平常運転だもの。
誕生日の夜を1人で過ごすのではなく、気になる人と過ごせるって、聞こえは良いんだけれど。これってどうなんだろう。
私は今日の午後、更に悶々として仕事が手につかなそうだ……。
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