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Ⅵ.コチの日
西本が車を出したのも頷ける。
そのくらい駅からは離れて海沿いの方へと車は走っていく。
以前から「漁師が趣味でやってる不定期開店の海鮮屋がある」とは聞いていた。だけどまさかその日が私の誕生日とは。
西本は車内でも誕生日の話に全く触れてこない。私が自分からその話を切り出したって良いんだけれど、意地でもそうはしたくない。何とか自分で気付かせて、そんな扱いをして欲しい。これは私のワガママだ。
しばらく走ってから、西本は漁港近くのコインパーキングに車を停めた。どうやら目的地に到着したようだ。
車を降りると西本は私の横に並びながら喜々として話し出す。
「さっき聞いたらさ、今日は新鮮なコチが入ったらしいぞ」
「コチ? 知らないけど、魚?」
「もちろん魚だよ! 新鮮な奴はコリコリで旨いぞ」
「へえ、ちょっと楽しみ」
「だろ!? 早く行こうぜ」
どうやら西本の中では、私の誕生日というよりはコチの日という感じだ。でも嬉しそうにしている西本を見ていると、何だか私まで嬉しくなってくる。
もういいか、誕生日なんて。
今日という日の過ごし方として、誕生日だという事にやきもきするよりも、不定期オープンの海鮮を楽しむ事の方が有意義な気がしてきてしまった。
それもこれも、アイツのせいだ。
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