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Ⅷ.誕生日、最後の5分
私たちは店を出て再び車に乗り込んだ。
エンジンを掛けてナビを操作しながら西本が発する。
「竹内、引っ越してないよな?」
「うん、前のまま」
「オッケー。なら道は大丈夫だ」
「送ってくれるの?」
「当たり前じゃん、悪いな、こんな時間になって」
「それは全然いいよ。それよりお会計」
「今日は俺が払うからいいって。誘ったの俺だし」
「えー。じゃあ今度は私が払う」
「はいよ、それで頼むわ!」
その声と同時に車はエンジン音を昂ぶらせて走り出した。
海沿いの夜景は綺麗だった。海の上だけが真っ暗で、向こう岸から続く町並みはキラキラと光っている。
私は気を張っていた疲れと、心地の良いキラキラの中でウトウトとしてしまっていた。
****
「――い! おーい、竹内」
西本の声でハッとした。
やば、送ってもらっといて寝てしまった。
私はシートからガバっと勢いよく起き上がる。
「!!! あ、ごめん、私寝てた!?」
「ふふ、寝てたやつって、絶対寝てた!? って訊くよな」
「ご、ごめん、送ってもらってるのに」
「いいよ、こんな時間だし」
西本はまた糸目で優しく微笑んだ。
私はその言葉を聞いてカーナビの隅のデジタル時計を見る。時刻は23時55分だった。もう私の誕生日は、最後の5分を迎えていたのだ。
「あ……本当、もう12時近いんだね」
私はそう言った時、車が止まっていることに気がついた。
それに周りの風景も私の家の近くではないように見えた。
「ここ……どこ?」
「なあ、竹内――」
「なに?」
次の言葉で私の心臓は高鳴るどころか止まりそうになった。
「――誕生日、おめでとう!」
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