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Ⅸ.西本の思い
……え?
今なんて言った?
私の心と口は同時に同じ言葉を発した。
「……なんて?」
「だから、誕生日おめでとう!」
いや、誕生日って知ってたの!?
ていうか何で今なの。いや嬉しいよ誕生日だって覚えていてくれて、それはそうなんだけど。なんで今?
もう誕生日という1日のラスト5分に差し掛かっているのに。
「あ、今さ、何で今更おめでとうなんて言うんだって思ってる?」
「そりゃあ……思うでしょ」
西本はいたずらっぽく笑った。そして少年のような眼差しが、急に大人びて真剣な顔つきへと変わっていった。
「竹内は友達も多くて、人に囲まれてるイメージなんだ」
「そんなことないよ」
「いやあるよ。誕生日なんて、それこそ日付が変わった瞬間から『おめでとう』のメッセージが届きまくるだろ?」
「……それは……友達からね」
「だろ? 俺はさ、その中に埋もれたくなかったんだ」
次の瞬間、私の身体は力強く西本に手繰り寄せられて、たちまちその身体の中に埋まった。おでこに西本の肩の骨が当たって少し痛かったけど、別に嫌じゃなかった。
密着した身体の外側と内側、両方から西本の声が響いてくる。
「……俺は、一番覚えていてもらえそうな、誕生日の日の、最後の『おめでとう』を言いたかった」
「最後の……おめでとう?」
「そう、ラスト5分くらいにさ、その日最後のおめでとうで、俺で、竹内の誕生日を締めくくりたかったんだ。ごめん、俺のワガママ」
私は無意識に自分の手を西本の背中へと回していた。触れている西本の身体からドクドクと心音が伝わってくる気がする。それとともに暖かい温度が伝わってくる気がする。気がするばっかり。
抽象的な表現でしか言えないことばかりだけど、具体的に言えることは、私は今、すごい幸せな気持ちだということ。
「……ありがとう。嬉しい」
「そう言ってもらえて良かった」
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