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ふと、あたしが持っていた紙袋の中身に、晃が視線を落として驚いた顔をする。
「あれ? それってうちの学校のタオルじゃない?」
「え?」
「うちの学校、部活熱心じゃん? なぜか指定のタオルまであるんだよね。俺も持ってるけど」
そう言って自分の鞄からタオルを出して見せてくれた。あたしが昨日借りたものと同じだけど、ラインの色が違う。晃のはブルーで、昨日の人のはグリーンだ。
「それ、どうしたの?」
気になって当たり前だと思う。だって、あたしが晃の学校の指定タオルを持っているはずがないから。でも、その質問に、あたしは戸惑ってしまう。
このタオルの事は、あたしとあの人だけの事にしておきたい。
でも、見られたからには、晃だって説明がないと納得しないと思うし。
「……昨日、ちょっと具合い悪くなって、電車降りた時に晃と同じ学校の子に貸してもらって……」
「そーなの? ってか、具合い悪くしたって大丈夫かよ? すぐ俺を呼べよ。飛んでいくから!」
具合いが悪かったことの方を気にしてくれる晃に、あたしは安心した。
「それ、友達なの? 俺から返しておこうか?」
善意で言ってくれてるのは分かったけど、あたしはその申し出を断った。
「大丈夫だよ。自分で返すから」
「そ? んじゃ、いっか」
すんなり諦めると、晃はあたしの肩に肩を寄せて近付く。
「なに……」
不思議に顔を上げた瞬間に、晃の顔が近付いてきて、そっと唇が触れた。
ほんの一瞬だけ、触れた唇がすぐに離れると、目の前の晃は嬉しそうに微笑んだ。
「抱きしめたいけど、我慢できなくなりそうだからやめとく」
あたしの頭を撫でて、照れているのか繋いだ手をブンブン振りまわされた。
「あ、のんの好きな〝みるくソフト〟食べに行こーよ」
晃は、あたしの事を何でも知っている。
好きな色、好きな食べ物、好きな曲、好きな本。何でも話してきたから、何でも知っている。
だけど、あたしの好きな人を聞かれたら、晃だって言う自信がないかもしれない。
目の前で、あたしのことを愛おしく見てくれる晃が、あたしはなかなか同じようには見れない。
こんな気持ちのまま晃と一緒にいても、きっとダメだよね。
でも、別れる理由もないし、友達でいたいから、今の関係を続けてしまう他に術を思いつかない。
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