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「卒業生の皆さん。本日はご卒業おめでとうございます」
別れを惜しんだり、次への新たな始まりに意気込んだり、それぞれが節目を迎える中学校最後の日。
「ずっと、好きだったんだけど、付き合ってほしい……」
仲の良い男友達の晃から告白された。
正直驚いたし、まさかそんな事を言われるなんて考えもしていなかったから、立ち尽くしたまましばらく黙り込んでしまった。
何と答えていいのか戸惑っているあたしに、晃は「また、連絡する」と言い残して、足早に友達の所へと戻って行った。
「のん、晃なんだって?」
親友の茜が近づいてきて、呼び出された訳に勘付いているのか、ニヤニヤしている。
「好きだって……」
「やっぱりー! 絶対そうだよね、いつも仲良すぎだもん、のんと晃。もう付き合ってる様なもんだったし、答えは決まってるよね?」
やけにテンションの高い茜に対して、あたしはそうでもなくて。だって、晃のことは友達としか思っていなかったから。
好きとか、恋愛感情は抱いたこともないし、一緒にバカやって楽しい大親友とでも言ったらいいのか。
だからこそ、この関係は失いたくなくて、高校は別々になってしまうけど、また会いたいって思ってる。
だから、どう返事をしていいのか分からなかった。
「もちろん、付き合うんでしょ?」
当たり前の様に茜に言われて、あたしはやっぱり黙ってしまう。
「え?! まさか、迷ってんの? あぁ見えて晃のこと好きって子たくさん居るんだよ。卒業式だし、多分告白されたりしたんじゃないかなぁ」
机の上を片付けながら、茜はあたしに卒業証書の入った筒を振り回しながら説明する。
「高校違うし、これからは会える時間も少なくなるんだし、付き合っときなよー」
身振り手振りが大げさになってきたところで、あたしはようやく頷いた。
「そうだよね」
茜に推された形で、あたしは晃と付き合うことをオッケーした。
だけど、思った以上に会えない。
時間が合わない。
新しい環境に慣れるのに精一杯になってしまって、そうこうしているうちに、連絡さえもままならなくなって、返さずにいたメッセージや着信が積み重なっていった。
そのほとんどはあたしが止めていた。
次に返事を返す頃にはもう過ぎた話題で、新たな話題も、会わないとやっぱり浮かばない。
一緒にいた頃は本当に楽しかったのに。
あたしは、晃と連絡を取るのを諦めた。来ても返さないから、だから晃からの連絡も減っていって、ついになんにもこなくなった。
自然消滅。
そう思えばいいのかな。
初めから、あたしには恋愛感情はなかったから、それが寂しいとも思ったりしなかった。
──時は過ぎて、
高校二年に上がったあたしは、
運命の出逢いをすることになる。
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