プロローグ

2/2
前へ
/163ページ
次へ
「卒業生の皆さん。本日はご卒業おめでとうございます」  別れを惜しんだり、次への新たな始まりに意気込んだり、それぞれが節目を迎える中学校最後の日。 「ずっと、好きだったんだけど、付き合ってほしい……」  仲の良い男友達の(こう)から告白された。  正直驚いたし、まさかそんな事を言われるなんて考えもしていなかったから、立ち尽くしたまましばらく黙り込んでしまった。  何と答えていいのか戸惑っているあたしに、晃は「また、連絡する」と言い残して、足早に友達の所へと戻って行った。 「のん、晃なんだって?」  親友の(あかね)が近づいてきて、呼び出された訳に勘付いているのか、ニヤニヤしている。 「好きだって……」 「やっぱりー! 絶対そうだよね、いつも仲良すぎだもん、のんと晃。もう付き合ってる様なもんだったし、答えは決まってるよね?」  やけにテンションの高い茜に対して、あたしはそうでもなくて。だって、晃のことは友達としか思っていなかったから。  好きとか、恋愛感情は抱いたこともないし、一緒にバカやって楽しい大親友とでも言ったらいいのか。  だからこそ、この関係は失いたくなくて、高校は別々になってしまうけど、また会いたいって思ってる。  だから、どう返事をしていいのか分からなかった。 「もちろん、付き合うんでしょ?」  当たり前の様に茜に言われて、あたしはやっぱり黙ってしまう。 「え?! まさか、迷ってんの? あぁ見えて晃のこと好きって子たくさん居るんだよ。卒業式だし、多分告白されたりしたんじゃないかなぁ」  机の上を片付けながら、茜はあたしに卒業証書の入った筒を振り回しながら説明する。 「高校違うし、これからは会える時間も少なくなるんだし、付き合っときなよー」  身振り手振りが大げさになってきたところで、あたしはようやく頷いた。 「そうだよね」  茜に推された形で、あたしは晃と付き合うことをオッケーした。  だけど、思った以上に会えない。  時間が合わない。  新しい環境に慣れるのに精一杯になってしまって、そうこうしているうちに、連絡さえもままならなくなって、返さずにいたメッセージや着信が積み重なっていった。  そのほとんどはあたしが止めていた。  次に返事を返す頃にはもう過ぎた話題で、新たな話題も、会わないとやっぱり浮かばない。  一緒にいた頃は本当に楽しかったのに。  あたしは、晃と連絡を取るのを諦めた。来ても返さないから、だから晃からの連絡も減っていって、ついになんにもこなくなった。  自然消滅。  そう思えばいいのかな。  初めから、あたしには恋愛感情はなかったから、それが寂しいとも思ったりしなかった。  ──時は過ぎて、  高校二年に上がったあたしは、  運命の出逢いをすることになる。
/163ページ

最初のコメントを投稿しよう!

39人が本棚に入れています
本棚に追加