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声でも感じたけど、優しい表情をして彼は笑う。センター分けの長めの前髪に少し下がった眉。制服は晃と同じ高校のもので、同じ高校生だと分かってあたしは少し安心する。
冷たい水が喉を通っていくのを感じると、深いため息をついた。と、同時に首筋を流れるものに、あたしはびっしょりと髪の毛先が濡れるくらいの汗をかいていたことを知る。
「これ、良かったら使って。下ろし立てだから多分、臭ったりはしないはず……」
鞄から取り出したタオルの匂いを確かめながら差し出してくれる彼に、あたしは笑った。
「あ、良かった。元気出たっぽいね」
「はい、ほんとありがとうございます」
あたしは借りたタオルで汗を拭きながら頭を下げた。
「もう少し落ち着いてから電車乗った方がいいと思うよ。僕は先に行くね」
手を振って立ち上がった彼に、あたしは頷いて後ろ姿を見送った。
「あ、これ。返すのに、名前……」
慌てて人混みに紛れてしまった後ろ姿を探したけど、見つけることは出来なかった。分かったのは、晃と同じ高校に通っているという事。もう、遅刻なんてどうでも良くなって、水を飲み干すと学校とは反対の電車に乗り込んだ。
今日は休んでしまおう。もしまた明日彼と会えるなら、また会ってお礼を言いたい。
首に掛けたタオルをぎゅっと掴んで、あたしは彼の笑顔を思い出す。
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