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1. 約束
クラスの女子全員が、運動場の真ん中で、砂に書かれた線の上にずらっと並んでいる。
二十メートル離れたところにもう一本の線が書かれていて、わたし達はそこを見つめる。
先に走り終えた男子達は、そんなわたし達に向かって「頑張れー!」などと口々に言っている。
その中には、わたしの好きな人、今井くんもいる。
最後の一人にまで残って、百四回という素晴らしい記録を残した今井くんは、圧倒的ヒーローだった。
女子達の黄色の歓声に包まれながら、汗を流して走っている今井くんは本当に格好良くて、わたしはあらためて今井くんが好きだと思った。
だけどわたしはそんな今井くんとは違って、運動音痴で鈍臭いから、今井くんに走っている姿を見られると考えるだけで、憂鬱な気持ちでいっぱいになる。
できることならこのまま逃げ出してしまいたいけど、仮病をつかってズル休みするほどの勇気はないし、どうせあとで補修で走らされるから、今頑張って走るしかない。
あれはたしか、今から二時間くらい前。
一時間前の国語の授業が終わって、三時間目に体育でシャトルランをやるってわかったときのことだった。
「しんどくなったら一緒に抜けよな!」
真面目な顔をして、沙奈はわたしに小指を差し出した。
「わかった!裏切りとかなしやで」
わたしは微笑みながら、沙奈の小指に自分の小指を絡めた。
「ゆびきりげんまん、嘘ついたらはりせんぼんのーますっ!」
わたし達はぶんぶんと力強く腕を上下に振り「指きった!!」と大きな声で叫び、手を離した。
運動神経が悪くて走るのが遅い者同士、わたしと沙奈は同盟を組んだのだ。
どちらかの体力が限界を迎えたら、どちらかはまだ平気でも一緒に抜けよう、と。
それは一人だけ真っ先にリタイアして恥をかくことを防ぐための、大切な約束だった。
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