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1.出会いと別れ
放課後の教室、
机に倒れ込んで西陽に照らされた窓をぼんやりと眺めていた、
ゆっくり、そしてメトロノームのように同じテンポで刻んでいる私の胸の鼓動、自分の心音が伝わるくらい、、静かだ、
クラスの皆んなが部活や家路についた後の僅かな時間、
最近はこんな一人きりの空間で、何を考えるでもなく無駄に時を過ごすのが小さなお気に入りになっていた、
高校生活も終盤、進路も決まり年が開ければやがて別れの季節がやってくる、
彼とも今のままじゃいられない、、
「結衣!」
やっぱ、見つかるよね……
廊下の窓から顔を覗かせて、翔琉(かける)が怒った表情で私を見ていた、
「こんなところで何してる⁉︎」
いつもの時間にいつもの場所にいない私を探していたのだろう、チラッと視線を送ると目を吊り上げて睨んでいた、
そんなに怒らなくてもいいじゃん、、
翔琉は教室の入り口にまわり込み、机の間を滑るように器用にすり抜け、勢いよく近寄ると、私の前の席のイスを引いて後ろ向きに跨って向かい合う。
向かい合うはいいけど、鼻と鼻の距離は僅か三十センチばかりしかない、
慌てて背筋を伸ばしてのけ反るように間隔を保った、
もう! いつもながら顔が近いです!
少し照れるけど決して目は逸らさないと決めていた、油断するとすぐにキスされる……
「ここだって、どうしてわかったの?」
「結衣の事なら、なんでも知ってる」
「嘘つき! 翔琉に話してない秘密なんてまだまだ沢山あるし」
「あるなら教えて、また覚えるからさ」
そんな暇があるならもっと覚える事沢山あるでしょ、私より遥かに賢いけど、、
本当は……秘密なんてない、
嫌というほどお喋りをした、
授業の合間に、登下校の最中に、家に帰っても携帯で、どちらかが寝落ちするまで毎日のように、もう話す事がなくなるほど、
いや、ひょっとしたら、もうないのかもしれない……
最近は黙り込むシーンも増えた、
それでも苦痛に感じなかった、彼と同じ時間を過ごすことに疑問を持った事はないからだ。
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