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少女のもとには、誰も見舞いに来ない。
かわりに、見張りかと思えるほどに看護師と医者が入れ替り立ち代わりやってくる。
病気は、重いのだろう細い腕には常に点滴を打たれ痛々しい。
それでも、毎日ベッドを起こし外の景色が見えるようにしている。
おかげで、俺はいつでも少女の顔が見ることができた。
それに加え、少女は日に一回かならず窓際に座る。
太陽の光を浴びながら静かに瞳を閉じ、 祈るように……。
丸いスコープの枠の中に映し出される少女を見つめながら、こんな絵画があったなと俺は思った。
ボスの屋敷で見た絵。殺伐とした裏社会の者には不釣り合いな温かな聖母子の絵。
聖母マリアが椅子に座りながら、キリストを抱いている。
それは他の絵画と違い、丸いカンバスに描かれていた。
絵の名前は、確か……『椅子の聖母』と言ったな。
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