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夕凪
夕闇に吸い込まれ、静かに降り立ったのは黒髪の青年だった。
長く細いロッドを振り上げ、一振りすると辺りのモノ達は砂塵に慣れ果てた。
青年はしゃがみ込み、手を合わせて地に祈る。
どうか、安らかな眠りが訪れますように。
たとえ自らが血で染まり、祈る資格がないとしても、そうしなければ何かに押しつぶされてしまいそうだった。
周りには誰もいない。
消してしまったのは自分であるはずなのに、この冷たい水の奥深くに沈んでいく感覚がするとは、随分と都合が良いものだ。
それでも青年は消し続ける。
最愛の彼女のために。
この憎まれた世界を消して、彼女を救いに導くために。
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