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別世界で守る力
しかし私は旦那にも彼に子供を出産したことを言わなかった。旦那にも結局最後まで言えなかった。悩んでいる間にお腹が大きくなり、あっという間に出産した。彼も先生と言われる一流の作家になったから余計に仕事を優先して欲しかった。彼は必ず連絡をくれる。淋しい日々などなかったから私は一生懸命に栞を可愛がって育てる事が出来た。
たくさんの絵本を読んであげて、見えない父親の存在を隠していた。
現実にではひとりぼっちで精神的に病んでしまった。しかし、どんな時でも必ず連絡をくれる彼。心の支えだけを頼りに栞を育てた。
二人は変わらず愛を持ち続けていた。
たとえ実際に会えなくても……。
そして、一通の絵はがきが届いた。
「ママ~、お手紙~。」
栞はだいぶ大きくなった。
すると、
――◯月◯日、◯◯の海で◯時に待ってる――
と書かれていた。
数日後、約束の場所へ栞と一緒に海へ行った。すると、波を見ている男性が一人振り向いた。
栞は一目見て、
「パパァ~~~~」
と走り出す。彼は走っていった栞を抱き抱えて抱っこをした。
「もう、これ以上は隠せないわね。」
そう言って、彼に全てを話し始めた。
「一目見て感じるものがあったし、すぐに分かったよ。」
彼にはすぐに自分の子供だと分かっていたみたいだった。
「私達たち家族が揃ったわね。」
そう言って栞の手をお互い握り、空高く栞をジャンプをさせた。この瞬間が一番幸せと感じる時だった。
あれから何十年かして私達はおじいちゃん、おばあちゃんになった。年を取り、旅行も出来なくなってしまった。何故かというと毎週のように病院の予約が入り、通院に忙しくなっているからだ。
「もう昔のように温泉に行ったり出来ませんねぇ。」
相変わらず仲のいい私と彼は、今では隣で会話をしている。
あるお盆の日、病院も休みだったので久々に栞と一緒にお墓参りへ行った。普段なら旦那や両親だけのお墓で済ませていた。しかし、今日は親戚のお墓までお線香をあげたくなった。お墓参りも暫くしていないと胸騒ぎがする。
そういえば……私のひぃおばあちゃんにあたる夫婦は何やらその次の代の姑と揉め事があったらしく、旦那様と一緒のお墓に入れないでいるらしいと聞いたことがあった。昔は何とも思わなかったが、大人になるにつれて納得いかなくなっていた。
「どうして一緒のお墓に入れてあげないんだろう……」
ひぃおじいちゃんだけは代々受け継いできた立派なお墓に入っている。しかし、ひぃおばあちゃんはお墓に入れてもらえず本堂の脇の別室に飾られている。
「別々なんてかわいそう……」
すると、急に近くの松の木がザワザワし、ブワーッと風が吹いて私の鞄の中の薄い生地のハンカチが風に飛ばされて宙に舞い上がった。
「あー、待ってー!」
上を見ながら手を伸ばしたら、目が回って階段から足を踏み外して私も宙に浮いた。そうしたらなんと、ひぃおばあちゃんが目の前に現れて私の名前を呼んだ。
「レイラ……、レイラ…………」
気がつくと、水の中にいた。
「元気だったかい?」
ひぃおばあちゃんがおばあちゃんになった私に言った。沢山話したいことがあるのに声が出ない。
「レイラ、あなたは本当の愛を手に入れられてよかったね。実は私も同じような経験をしたんだよ。でも周りから酷く反対されて家から出されてしまったこともあったのよ。世間体を気にするお家柄だったからねぇ。でも私、しぶとく生き抜いたわよ。これでもかってくらいいじめられてしまったけれどね。でも、何かと力になったのはやっぱり子供のおかげね。沢山のパワーをくれたわ。時々見上げるこの空と同じくらいのパワーだと思ってる。レイラもこれからもっと幸せになれるから。だからいつも自信をもって生きなさい。約束よ!」
すると私は深い海の中にいて、海底へと吸い込まれていった。暗闇を水と一緒にどこまでも流れていく……。
その先にあったのは宇宙。そして月の上に立っていた。
幸せになったはずのおばあちゃんの私がまた大人気アイドルに戻っていた。
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