【終章】Revenge madness

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〜羽田空港〜 大型のチャータージェットが、管制塔から遠く、海に浮いたD滑走路へ導かれる。 12de4dcd-d875-4816-bbf8-5e158d38bcce 大型の旅客機を改装し、ゴージャスなプライベートジェット仕様に仕上げたものである。 近年は、エアバスA340-300 型や、ボーイング747、757等を使用し、空飛ぶホテルとまで言われるものも少なくない。 航空管制部長、青山(あおやま) 治雄(はるお)のもとに、管制官の鈴村(すずむら) 美緒(みお)が駆け込んで来た。 「どうした鈴村、珍しく慌てて」 「気になることがありまして…」 羽田空港初の、女性管制部長候補である鈴村。 冷静沈着で清く礼儀ある姿に、皆納得していた。 「君が相談に来るのは、先日の爆破事件と今日が2回目だな。頼って貰えると安心するよ」 責任を取る形で辞職する青山。 自分の無力さに苛まれていた。 「もうすぐアメリカから帰港する、CVW社のチャーター機ですが、誘導高度より少し低いんです」 「到着はD滑走路か。海からなら障害物はないし、ベテラン機長のことだ、問題はなかろう」 「だといいのですが…警告に対し、予定通りの高度だと言うものですから、計器の故障では?と」 「心配し過ぎだ鈴村。チャーター便は最新の機器を装備していて、整備も万全だ」 一般の乗客より、チャーター便を利用するVIP客には、かなり細かな配慮がものを言う。 「ですよね…到着が近いので心配で。分かりました。もう少し様子を見てみます」 「万が一の時は呼んでくれ、この際どんな責任でも負ってやるから」 半分冗談だが、笑えない鈴村。 綺麗な姿勢で軽く頭を下げて出て行った。 この鋭い直感的なセンスが、彼女を次期管制部長にまで繋げたのである。 〜チャーター便内〜 罪を認め、観念した小笠原駿壱。 相手がラブでは、太刀打ちできない。 「先ほどの通信の中で、幾つかあなたには聞かせてない部分があります」 「さて、聞くのが良いのか悪いのか、ラブさんの采配に任せます」 「良し悪しは、あなたのこれからの生き方次第で決まるでしょう。まず一つは…」 まず、と聞いて、警戒心が自然に高まる。 その不安を感じ取るラブ。 「悪いことではありません。小笠原紡木さんは、半年ほど前からリハビリを始め、今ではほぼ普通に生活できるまでになっています」 「えっ…妻は…意識不明のままでは?」 目的が別にあったにしろ、婚約に至るには、それ相応の愛情も芽生える。 無事だと言う喜び。 復讐や怒りに対する恐れ。 減刑の可能性への僅かな期待。 被害者自らの公言による、社会的存在の壊滅。 「安心して下さい。彼女はあなたを愛しています。あなたが、ある意味救った川坂晴翔は、彼女に会って、心から謝罪しました。そしてそれを彼女は受け入れ、許した」 「そんな⁉︎ 自分の妹を死に追いやった彼を許すなんて…そんなこと…」 いつものクールさが消える。 さすがに動揺は隠せない。 「彼女は晴翔から、あなたが狙ったのが妹ではなく、自分だと聞いたのよ。晴翔は弱い姉や両親を嘆くことはあっても、白和泉家を殺すほど恨んではいなかった」 複雑な晴翔と梢枝の心境。 欲望が愛情に(まさ)った彼には、到底理解できないものであった。 「だから、彼を許した。そして、あなたが自分を事故にあわせたのが、憎しみや殺意ではなく、あのシステムを手にするためだった。それを知って、あなたを許したのよ。もとより彼女は、あのシステムの権利は、夫となるあなたに委ねるつもりだったのだと思います」 研究者である彼女は、その成果物の所有権などに興味はなく、世の中の役に立てれば良かった。 愛情もあったが、それを実現できるCVW社の彼と巡り逢えたことを、運命だと感じたのである。 「そんことも知らずに私は…なんてことを。確かに…殺すつもりなんてなかった。だから、燃えるあの動画を晴翔から見せられ…怖かった」 蘇る恐怖と罪の意識、その後悔。 そして互いに、愛情とは別なる目的を持っていたことへの安堵。 そして。 浮かび上がる疑問。 「だとしたら、今あのシステムの複製を利用して、煽り屋達を殺害しているのは誰なんだ?」 「大学で彼女と同じ研究室でそれを手伝い、そしてあなたに近付いて、システムを使える人物」 「まさか…羽間…衣千香なのか⁉️」 予想もしていなかった驚愕の真実。 「あの煽り屋への戦線布告。彼女は晴翔を消すつもりよ。東京では彼女に煽られたHunter達が、次々と事故と爆発で抹殺されています。恐らく、白和泉遼子の車にも、同じ爆弾が仕掛けられていたはず」 「何だって❗️」 「現代の安全性が進歩した車は、映画の様に、簡単に爆発するものじゃない」 「では、白和泉遼子を殺したのは…」 「生きていたかは不明ですが、爆破したのは羽間衣千香。彼女は全てを手に入れるつもりで、計画的にあなたに近付いた。その最終段階。この機も、通常より高度が低いわ。当然あなたも、暗殺リストに載っているってこと」 空を通い慣れているラブ。 その異常に気付いていた。 「ラブさん、あなたは知っていてこの機に?」 「まぁ…推測だったけどね。TERRA(うち)にいる優秀な頭脳の持ち主が、その可能性を導き出したから。さて、そろそろマズいわね。コックピットへ入れて下さい」 唖然とする小笠原をせき立て、前へと向かうラブであった。
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