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〜新宿区〜
首都高速4号新宿線に乗り、西新宿JCTから西へと向かう白銀のMINI クーパー 。
ドライバーの原田 岬は、JCTで渋谷方面から合流して来た車に気付いていた。
「おい原田、お前の横に座るってのは、初めてだな。妙に落ちつかねぇ」
「神さんの隣で運転するのも、落ち着かないっすよ。シートベルトしてる姿も初めて見たし」
「仕方ねぇだろ、助手席なんだからよ。捕まったら、咲に殺されちまうぜ」
「あの…どうせ聞き流すんでしょうが、一応言っておきますけどね。今は後ろでもシートベルト必要なんすよ」
「マジか?…あ〜でも、いつもなら後ろはスモークガラスで見えねぇから大丈夫だ」
飛鳥 神。
関東一帯を締めるヤクザ、飛鳥組の組長である。
元々関西が拠点であったが、今は黒龍会の山崎 蘭に任せていた。
中国の上海支部は、トーイ・ラブが救った、蛇心の博 依然に任せている。
「しかし…原田、非番の日に呼び出して悪かったが、何でミニクーパーなんだ?」
「神さん、非番の日に呼び出してくれて何ですが…これが私の超カスタムした愛車でしてね。出先だったから、ベンツ取りに行く余裕が無かったんすよ、全く…」
すこぶる機嫌の悪い原田。
ちょっと焦る神。
「しょ…しょうがねぇだろうが、忘れてたんだから。文句なら、今日出所する浜崎に言え」
「また無茶苦茶なことを、分かって…」
言いかけた時、パッシングライトが光った。
更にクラクションが鳴らされる。
「やっと来やがったか、待ちくたびれたぜ」
「神さんも気付いてたんすね」
「あぁ、赤のポルシェ・カイエンターボ。新宿からピッタリついてやがる」
煽り始めて、1m以内の間隔を維持している。
「原田ぁ、ゴールは府中刑務所だ。ぜってぇに抜かせんなよ…って…無理か💧」
「ミニクーパーを舐めて貰っちゃあ困る。カスタマイズした、直列4気筒DOHCターボエンジン搭載。この車体重量で1998cc。それに…」
「ドライバーは、元レーサーの原田様ってか!」
一気に急加速するミニクーパー。
意表を突かれて出遅れたが、パワーで追いつく。
何台もの車の間を、流れる様に抜き進む原田。
それに、ピタリと喰らいつくポルシェ。
「神さん、コイツはプロのレーサーですぜ。その後ろをついて来る、BMのワゴン車も仲間です」
「違ぇねぇな。原田、ドライブレコーダーは?」
「後ろのマスコットに仕込んでますよ!」
「さすがだ、モニターに出せるか?」
原田がナビモニターに、映像を出した。
拡大してナンバーを確認する神。
スマホを出すと…『愛の讃歌』が鳴り始めた♪
「な…何でだ?」
驚きながらも出る神。
「よぅ咲、丁度掛けようと思ってたところだ。やっぱり、運命ってやつを感じるなぁ💖」
「なぁにバカなこと言ってんのよ神💦 ちょっと頼みたいことがあってね、今夜いつものあの店で会えるかな?」
「いいぜ、仲間の出所祝いを、あの店でやる予定だしな。夜8時には居る予定だ」
「良かったわ。それで、何の用なの?」
(何で静まるのよ皆んな💦)
聞き耳を立てる刑事課のメンバー。
呆れてスピーカーに切り換える咲。
「今バカなポルシェに煽られててな…今写真送ったから、ナンバー調べてくれねぇか」
即座に昴が調べる。
「神さん、昴です。そのナンバーは、今は使われていません。先月事故で亡くなってますよ」
「早っ! サンキュー昴。咲、では今夜」
「ちょっと待ちなさいよ神。ヤクザの組長を煽る奴なんかいるの?」
咲だけではなく、スピーカーホンで聞いている皆んなが、あの派手な赤いベンツを思い浮かべた。
「それが…色々と事情があってな💦 とにかく、今話題の煽り屋グループだろう。中でもコイツはレアなボスキャラ的な奴だ。あとの話は今夜な!」
切ると同時に、昴がライブ映像を映した。
「神さんのスマホを、TERRAの監視衛星でGPS探知したものです」
高速で走る赤いポルシェと黒のBMWワゴン。
その前で、先を譲らず懸命に走るミニクーパー。
「はぁ?…もしかして、あの小っこいのが神?」
「でも咲さん、凄いスピードとテクニックです」
「確か…専属ドライバーの原田ってヤツは、元レーサーだったな。今回ばかりは、奴らは獲物を間違えちまったな」
淳一の補足に、うなずく皆んな。
並大抵の者なら、事故るか抜かれている。
「煽り…と言うより、必死に喰らい付いてるって感じね。乗ってるのがヤクザの組長とは知らず。とうとう天罰が下る時ね」
桐谷の言う通りである。
まさかアレに、組長が乗ってるとは思わない。
「公道なら神が返り討ちにしてるわね。昴、付近の警察に通報して!」
このところ、煽り運転の投稿動画が激化し、死亡事故を引き起こすグループが噂されていた。
「既に走行する誰かが通報した様ですね。まぁ…ムダだと思いますけど」
真田のその冷静な見越しは、正しいと思えた。
未だに、捕掴できた例はない。
そうしてる内に府中市に入り、東京競馬場手前のインターチェンジが近付く。
ギリギリまで出口から離れた車線を走り、トラックを抜いたタイミングで、一気に出口へ向かう。
さすがについて来れず、通過して行く2台。
その後を、何台ものパトカーや白バイが追う。
「でかした原田! やっぱお前ぇは凄ぇな」
「車なら任してください。おかげで、だいぶ早く着いちゃいましたね」
「まぁ…待てばいいさ。浜崎って奴は、長い間ここで、この時を待っていたんだからな…」
模範囚として刑期は短縮された。
浜崎 菊矢。
今は亡き、鬼島組の組長の右腕だった漢。
ラブを守り、全てを飛鳥組に託して逝った鬼島。
面識はないが、評判は聞いていた。
その鬼島の意思を引き継いだ飛鳥神。
本人が望めばそれ相応の処遇を、望まなければ堅気の道を世話するつもりであった。
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