【3】Protection

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〜新宿区〜 首都高速4号新宿線に乗り、西新宿JCTから西へと向かう白銀のMINI クーパー 。 4d590130-e107-47cb-a61e-c237004c6fb6 ドライバーの原田(はらだ) (みさき)は、JCTで渋谷方面から合流して来た車に気付いていた。 「おい原田、お前の横に座るってのは、初めてだな。妙に落ちつかねぇ」 「神さんの隣で運転するのも、落ち着かないっすよ。シートベルトしてる姿も初めて見たし」 「仕方ねぇだろ、助手席なんだからよ。捕まったら、咲に殺されちまうぜ」 「あの…どうせ聞き流すんでしょうが、一応言っておきますけどね。今は後ろでもシートベルト必要なんすよ」 「マジか?…あ〜でも、いつもなら後ろはスモークガラスで見えねぇから大丈夫だ」 飛鳥(あすか) (じん)。 関東一帯を締めるヤクザ、飛鳥組の組長である。 元々関西が拠点であったが、今は黒龍会の山崎(やまさき) (らん)に任せていた。 中国の上海支部は、トーイ・ラブが救った、蛇心の(ふー) 依然(イーラン)に任せている。 「しかし…原田、非番の日に呼び出して悪かったが、何でミニクーパーなんだ?」 「神さん、非番の日に何ですが…これが私の超カスタムした愛車でしてね。出先だったから、ベンツ取りに行く余裕が無かったんすよ、全く…」 すこぶる機嫌の悪い原田。 ちょっと焦る(じん)。 「しょ…しょうがねぇだろうが、忘れてたんだから。文句なら、今日出所する浜崎に言え」 「また無茶苦茶なことを、分かって…」 言いかけた時、パッシングライトが光った。 更にクラクションが鳴らされる。 「やっと来やがったか、待ちくたびれたぜ」 「神さんも気付いてたんすね」 「あぁ、赤のポルシェ・カイエンターボ。新宿からピッタリついてやがる」 煽り始めて、1m以内の間隔を維持している。 dcc21e0c-ad2c-4f90-b3aa-0b80446bc8e6 「原田ぁ、ゴールは府中刑務所だ。ぜってぇに抜かせんなよ…って…無理か💧」 「ミニクーパーを舐めて貰っちゃあ困る。カスタマイズした、直列4気筒DOHCターボエンジン搭載。この車体重量で1998cc。それに…」 「ドライバーは、元レーサーの原田様ってか!」 一気に急加速するミニクーパー。 意表を突かれて出遅れたが、パワーで追いつく。 何台もの車の間を、流れる様に抜き進む原田。 それに、ピタリと喰らいつくポルシェ。 「神さん、コイツはプロのレーサーですぜ。その後ろをついて来る、BMのワゴン車も仲間です」 7e5726b9-cf7a-4dc6-aeb5-6e3b06383791 「違ぇねぇな。原田、ドライブレコーダーは?」 「後ろのマスコットに仕込んでますよ!」 「さすがだ、モニターに出せるか?」 原田がナビモニターに、映像を出した。 拡大してナンバーを確認する神。 スマホを出すと…『愛の讃歌』が鳴り始めた♪ 「な…何でだ?」 驚きながらも出る神。 「よぅ咲、丁度掛けようと思ってたところだ。やっぱり、運命ってやつを感じるなぁ💖」 「なぁにバカなこと言ってんのよ神💦 ちょっと頼みたいことがあってね、今夜いつものあの店で会えるかな?」 「いいぜ、仲間の出所祝いを、あの店でやる予定だしな。夜8時には居る予定だ」 「良かったわ。それで、何の用なの?」 (何で静まるのよ皆んな💦) 聞き耳を立てる刑事課のメンバー。 呆れてスピーカーに切り換える咲。 「今バカなポルシェに煽られててな…今写真送ったから、ナンバー調べてくれねぇか」 即座に昴が調べる。 「神さん、昴です。そのナンバーは、今は使われていません。先月事故で亡くなってますよ」 「早っ! サンキュー昴。咲、では今夜」 「ちょっと待ちなさいよ神。ヤクザの組長を煽る奴なんかいるの?」 咲だけではなく、スピーカーホンで聞いている皆んなが、あの派手な赤いベンツを思い浮かべた。 「それが…色々と事情があってな💦 とにかく、今話題の煽り屋グループだろう。中でもコイツはレアなボスキャラ的な奴だ。あとの話は今夜な!」 切ると同時に、昴がライブ映像を映した。 「神さんのスマホを、TERRAの監視衛星でGPS探知したものです」 高速で走る赤いポルシェと黒のBMWワゴン。 その前で、先を譲らず懸命に走るミニクーパー。 「はぁ?…もしかして、あの小っこいのが神?」 「でも咲さん、凄いスピードとテクニックです」 「確か…専属ドライバーの原田ってヤツは、元レーサーだったな。今回ばかりは、奴らは獲物を間違えちまったな」 淳一の補足に、うなずく皆んな。 並大抵の者なら、事故るか抜かれている。 「煽り…と言うより、必死に喰らい付いてるって感じね。乗ってるのがヤクザの組長とは知らず。とうとう天罰が下る時ね」 桐谷の言う通りである。 まさかアレに、組長が乗ってるとは思わない。 「公道なら神が返り討ちにしてるわね。昴、付近の警察に通報して!」 このところ、煽り運転の投稿動画が激化し、死亡事故を引き起こすグループが噂されていた。 「既に走行する誰かが通報した様ですね。まぁ…ムダだと思いますけど」 真田のその冷静な見越しは、正しいと思えた。 未だに、捕掴できた例はない。 そうしてる内に府中市に入り、東京競馬場手前のインターチェンジが近付く。 ギリギリまで出口から離れた車線を走り、トラックを抜いたタイミングで、一気に出口へ向かう。 さすがについて来れず、通過して行く2台。 その後を、何台ものパトカーや白バイが追う。 「でかした原田! やっぱお前ぇは凄ぇな」 「車なら任してください。おかげで、だいぶ早く着いちゃいましたね」 「まぁ…待てばいいさ。浜崎って奴は、長い間ここで、この時を待っていたんだからな…」 模範囚として刑期は短縮された。 浜崎(はまさき) 菊矢(きくや)。 今は亡き、鬼島組の組長の右腕だった(おとこ)。 ラブを守り、全てを飛鳥組に託して逝った鬼島。 面識はないが、評判は聞いていた。 その鬼島の意思を引き継いだ飛鳥神。 本人が望めばそれ相応の処遇を、望まなければ堅気(かたぎ)の道を世話するつもりであった。
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