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〜警視庁対策本部〜
TERRAからの差し入れコーヒーが届いた。
富士本は霞が関の本庁へ報告に。
昴は咲達を見ながら、煽り屋を探している。
桐谷は夜の東京で、煽り屋グループを探し、真田と久宝は犠牲者の共通点を、紗夜と淳一はCVW 創造的仮想世界(株)の事業を調べていた。
20:15。
刑事課に入る男性が1人。
「こんばんわ、遅くにすみません」
真っ先に気が付いたのは、意外にも(失礼💦)淳一であった。
「確か…凪原さん…だったかな? 久しぶりだが、どうしてこんなとこまで、こんな時間に?」
紗夜も気付き、その意図を読み取った。
「その節は大変なところを、あなた方に任せて帰ってしまい、すみませんでした」
「いえ、我々の管轄でしたから。結局、川坂すみれさんは自殺と断定されてしまい。初七日を待った様に、ご両親も後を追ってしまいました」
凪原は、1年前の芦ノ湖CCでの事件を担当した刑事であった。
「そんな!…それは悲しいことでしたね。あの遺書は、捜査されなかったのでしょうか?」
遺書には、娘の遼子を勝たせる様に、脅迫されていたことが書かれていた。
「偶然にもあの後、次の会場の富士屋仙石GCへ向かう長尾峠で、白和泉遼子さんが事故で死亡してしまい、あの遺書は闇に葬られました」
「白和泉財閥の力に、娘の不幸が重なりゃ、所轄じゃ手が出せなかったってわけか」
「淳! 失礼よ❗️」
「いえ、その通りです。何の証拠もなく、あの遺書も彼女の筆跡ではないことが分かりました」
「白和泉さんの事故は、ニュースで知りました。疲れてるのに取材陣に呼び止められ、峠道を急いでいたのでしょうね」
そうでないことは、分かっていた紗夜。
敢えて凪原を促した。
「それが、どうやら違うことが分かったんです。こちらで捜査していると聞き、駆けつけました」
「おいおい、白和泉の事故は管轄外だぜ」
「昴さん、動画投稿サイトのD-Momentをモニターに出してください」
「えっ?あのCVW社の副社長が立ち上げたって言う、決定的瞬間decisive momentのサイトですか?」
「紗夜刑事、なぜそれが?」
心を読まれて、驚く凪原。
「それより、説明して下さい」
「わ…分かりました。昴刑事さん、ジャンル『事故・災害』から『煽り運転』を選んで、最新の…あ、それです。再生して下さい」
再生すると、少しして、真っ暗なトンネルへと入る車が映り、それを追う様に映像が始まった。
「あのトンネルは、神奈川県長尾峠の入り口にある長尾トンネルで、あの車が白和泉さんの乗っていた車なんです!」
「マジか!」
「長尾トンネルって、心霊スポットとして有名なあのトンネルですね」
「こいつ、無灯火で追ってやがる」
真っ暗なトンネルの中。
テールライトだけが、不気味に赤く光る。
「ボリュームを上げて見て」
紗夜の並外れた聴覚が、その囁きを捉えた。
凪原も気付いていなかった様子。
昴がTERRAのシステムを利用して、ノイズを消し、声のボリュームを上げた。
「やっぱ不気味ね」
「シェイクダウンするのに、峠道は無茶だぜ」
「ダンプだけど、この前のパンピーよりマシよ」
「しかしカケルさんは、どうして彼女を?」
「あんた知らないの? 今日の女子ゴルフで、優勝候補だった川坂すみれは、彼のお姉さんよ」
「マジ! じゃあ、負けた腹いせに?」
「おい、静かにしてろ。録音るぞ」
「お、始まるぜ」
ベッドライトが点いた。
彼女の恐怖を想像するみんな。
灯りのない峠道で突然煽られ、逃げるしかない。
「まさかこいつ…」
「撮影隊が後ろについているとこを見ると、例の煽り屋グループですね」
「川坂すみれさんの弟はどこに?」
「さぁ…それが、父親が経営していた川坂建築エンジニアリングは、白和泉建設の子会社で、財閥にへつらう父親に反発し、15で失踪したまま…。葬儀にも現れませんでした」
「あの遺書を書いたのはその弟ね。名前は?」
「川坂 晴翔。晴れに羽の翔と言う字を書いて、晴翔だと分かりました」
「翔って字は、カケルって読めるわね」
「うわっ、酷い…」
昴と久宝が同時に呟く。
曲がり切れずに、激しくガードレールにぶつかって吹っ飛び、真っ暗な林に消える車。
ギリギリで曲がり、走り去って行く煽り屋。
後続の撮影者達は停まり、降りる音がした。
「ドドーン💥🔥」
その瞬間、暗闇に爆炎が上がった。
「あっちゃー、ダメだなこりゃ」
「カケルさんもギリだったし…」
「やっぱ…グリーンじゃ無理があるぜ」
「救急車は呼んだから、さっさと行くわよ!」
「チッ!イイものってこれかよ!」
「全く、やられたぜ」
映像はそこまでであった。
既に再生回数は10万回を超えている。
真田が気になったことを紗夜も考えていて、思わず目が合う2人。
「グリーンって…確かに白和泉さんの車は緑に見えたけど、あの会話には違和感があるわ」
「ゴルフのグリーン…でも変ですね」
真田が首を傾ける。
その目まぐるしく変化する心理を覗いた紗夜。
(これが、完全記憶脳と超越した洞察力…)
ラブやヴェロニカにも似た感覚はあったが、それとはまた違い、初めて感じるものであった。
この時真田は、昼間のカーチェイスと今の車の動きを重ねていた。
その時、声がした。
「こんな時間にみんなお揃いでネット動画を? そんな暇あるなら、私は要らないわね」
「凛さん」
「しかし…レーシングチームが、素人を追いかけるなんて、ヤな奴らね」
「やっぱりあのドライバーはレーサーですか。いくら相手が素人でも、夜の峠道で1mも離れずに追うなんて、かなりの腕前です」
「あら、新顔ね。TERRAの新咲凛よ、よろしく」
「真田と言います。どうしてレーシングチームだと分かったんですか?」
皆んなの興味津々な目が、凛に集まる。
「えっとね💦、グリーンってのは色でも芝生でもなく、湿った路面のこと。因みに…シェイクダウンは新車を初めて走行させることで、確かに峠道は無茶ね。それから、ダンプも湿った路面コンディションを表し、パンピーは凸凹な路面。全てレーサー用語よ」
「シッカリ最初から見てましたね、凛さん💧」
紗夜でさえ、気配を感じなかった。
さすが、元世界最強の暗殺者である。
(ラブには負けたが…)
「凪原さん、晴翔さんの写真はありますか?」
「ええ、中学生の頃のものですが」
鞄から取り出して、紗夜に渡す凪原。
「昴さん、レーシングチームを検索してみて下さい。まだ現役の可能性もあります」
「了解。凛さん、TERRAのアイさんに手伝って貰ってもいいですか?」
「はい、昴様。私もラブ様から、ことづかっておりますので」
突然モニターに現れた、アイの擬似体。
TERRAにある全システムの中枢を担う、エネルギー生命体である。
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