【3】Protection

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〜警視庁対策本部〜 TERRAからの差し入れコーヒーが届いた。 富士本は霞が関の本庁へ報告に。 昴は咲達を見ながら、煽り屋を探している。 桐谷は夜の東京で、煽り屋グループを探し、真田と久宝は犠牲者の共通点を、紗夜と淳一はCVW 創造的仮想世界(株)の事業を調べていた。 20:15。 刑事課に入る男性が1人。 「こんばんわ、遅くにすみません」 真っ先に気が付いたのは、意外にも(失礼💦)淳一であった。 「確か…凪原(なぎはら)さん…だったかな? 久しぶりだが、どうしてこんなとこまで、こんな時間に?」 紗夜も気付き、その意図を読み取った。 「その節は大変なところを、あなた方に任せて帰ってしまい、すみませんでした」 「いえ、我々の管轄でしたから。結局、川坂すみれさんは自殺と断定されてしまい。初七日を待った様に、ご両親も後を追ってしまいました」 凪原は、1年前の芦ノ湖CCでの事件を担当した刑事であった。 「そんな!…それは悲しいことでしたね。あのは、捜査されなかったのでしょうか?」 遺書には、娘の遼子を勝たせる様に、脅迫されていたことが書かれていた。 「偶然にもあの後、次の会場の富士屋仙石GCへ向かう長尾峠で、白和泉遼子さんが事故で死亡してしまい、あの遺書は闇に葬られました」 「白和泉財閥の力に、娘の不幸が重なりゃ、所轄じゃ手が出せなかったってわけか」 「淳! 失礼よ❗️」 「いえ、その通りです。何の証拠もなく、あの遺書も彼女の筆跡ではないことが分かりました」 「白和泉さんの事故は、ニュースで知りました。疲れてるのに取材陣に呼び止められ、峠道を急いでいたのでしょうね」 そうでないことは、分かっていた紗夜。 敢えて凪原を(うなが)した。 「それが、どうやら違うことが分かったんです。こちらで捜査していると聞き、駆けつけました」 「おいおい、白和泉の事故は管轄外だぜ」 「昴さん、動画投稿サイトのD-Momentをモニターに出してください」 「えっ?あのCVW社の副社長が立ち上げたって言う、決定的瞬間decisive momentのサイトですか?」 「紗夜刑事、なぜそれが?」 心を読まれて、驚く凪原。 「それより、説明して下さい」 「わ…分かりました。昴刑事さん、ジャンル『事故・災害』から『煽り運転』を選んで、最新の…あ、それです。再生して下さい」 再生すると、少しして、真っ暗なトンネルへと入る車が映り、それを追う様に映像が始まった。 「あのトンネルは、神奈川県長尾峠の入り口にある長尾トンネルで、あの車が白和泉さんの乗っていた車なんです!」 「マジか!」 「長尾トンネルって、心霊スポットとして有名なあのトンネルですね」 「こいつ、無灯火で追ってやがる」 真っ暗なトンネルの中。 テールライトだけが、不気味に赤く光る。 「ボリュームを上げて見て」 紗夜の並外れた聴覚が、その囁きを捉えた。 凪原も気付いていなかった様子。 昴がTERRAのシステムを利用して、ノイズを消し、声のボリュームを上げた。 「やっぱ不気味ね」 「シェイクダウンするのに、峠道は無茶だぜ」 「ダンプだけど、この前のパンピーよりマシよ」 「しかしカケルさんは、どうして彼女を?」 「あんた知らないの? 今日の女子ゴルフで、優勝候補だった川坂すみれは、彼のお姉さんよ」 「マジ! じゃあ、負けた腹いせに?」 「おい、静かにしてろ。録音(はい)るぞ」 「お、始まるぜ」 ベッドライトが点いた。 彼女の恐怖を想像するみんな。 灯りのない峠道で突然煽られ、逃げるしかない。 「まさかこいつ…」 「撮影隊が後ろについているとこを見ると、例の煽り屋グループですね」 「川坂すみれさんの弟はどこに?」 「さぁ…それが、父親が経営していた川坂建築エンジニアリングは、白和泉建設の子会社で、財閥にへつらう父親に反発し、15で失踪したまま…。葬儀にも現れませんでした」 「あの遺書を書いたのはその弟ね。名前は?」 「川坂(かわさか) 晴翔(はると)。晴れに羽の(しょう)と言う字を書いて、晴翔(はると)だと分かりました」 「(しょう)って字は、カケルって読めるわね」 「うわっ、酷い…」 昴と久宝が同時に呟く。 曲がり切れずに、激しくガードレールにぶつかって吹っ飛び、真っ暗な林に消える車。 ギリギリで曲がり、走り去って行く煽り屋。 後続の撮影者達は停まり、降りる音がした。 「ドドーン💥🔥」 その瞬間、暗闇に爆炎が上がった。 「あっちゃー、ダメだなこりゃ」 「カケルさんもギリだったし…」 「やっぱ…グリーンじゃ無理があるぜ」 「救急車は呼んだから、さっさと行くわよ!」 「チッ!イイものってこれかよ!」 「全く、やられたぜ」 映像はそこまでであった。 既に再生回数は10万回を超えている。 真田が気になったことを紗夜も考えていて、思わず目が合う2人。 「グリーンって…確かに白和泉さんの車は緑に見えたけど、あの会話には違和感があるわ」 「ゴルフのグリーン…でも変ですね」 真田が首を傾ける。 その目まぐるしく変化する心理を覗いた紗夜。 (これが、完全記憶脳と超越した洞察力…) ラブやヴェロニカにも似た感覚はあったが、それとはまた違い、初めて感じるものであった。 この時真田は、昼間のカーチェイスと今の車の動きを重ねていた。 その時、声がした。 「こんな時間にみんなお揃いでネット動画を? そんな暇あるなら、私は要らないわね」 「凛さん」 「しかし…レーシングチームが、素人(しろうと)を追いかけるなんて、ヤな奴らね」 「やっぱりあのドライバーはレーサーですか。いくら相手が素人でも、夜の峠道で1mも離れずに追うなんて、かなりの腕前です」 「あら、新顔ね。TERRAの新咲凛よ、よろしく」 「真田と言います。どうしてレーシングチームだと分かったんですか?」 皆んなの興味津々な目が、凛に集まる。 「えっとね💦、グリーンってのは色でも芝生でもなく、湿った路面のこと。因みに…シェイクダウンは新車を初めて走行させることで、確かに峠道は無茶ね。それから、ダンプも湿った路面コンディションを表し、パンピーは凸凹(デコボコ)な路面。全てレーサー用語よ」 「シッカリ最初から見てましたね、凛さん💧」 紗夜でさえ、気配を感じなかった。 さすが、元世界最強の暗殺者である。 (ラブには負けたが…) 「凪原さん、晴翔(はると)さんの写真はありますか?」 「ええ、中学生の頃のものですが」 鞄から取り出して、紗夜に渡す凪原。 「昴さん、レーシングチームを検索してみて下さい。まだ現役の可能性もあります」 「了解。凛さん、TERRAのアイさんに手伝って貰ってもいいですか?」 「はい、昴様。私もラブ様から、ことづかっておりますので」 突然モニターに現れた、アイの擬似体。 TERRAにある全システムの中枢を担う、エネルギー生命体である。
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