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〜新宿歌舞伎町〜
呼ばれた原田がカウンターに座った。
もう顔見知りの咲が、なるほどねと反応。
「今日のチェイスは、中々だったわよ」
「えっ…あ、はい。恐縮です」
「何を畏まってんだ原田」
相手は刑事課の課長。
本来、クラブで並んで座ることはない。
更には、組長の恋人でもある。
「さぁ、原田さん…ですね。まずはこのCVWの無料会員に登録して下さい」
荒垣の指示通り、登録をして行く原田。
PCアレルギー的な咲と神は、隣でビール🍻。
「ちょっとみんな声を出さないで下さいね」
「えっ、何でよ?」
「CVW社は、声紋認証が必要なんですよ」
「声紋認証?」
「ええ、スマートスピーカーの普及によって、今や金融機関を中心に拡大している方法です。中でもCVW社が採用しているテキスト独立方式は、発言速度やアクセント、言語等に依存しないため、簡単でありながら高精度な認証が可能です」
「酒灼けで声が枯れたら?」
咲の場合、風邪やカラオケよりコレである。
「さ、酒灼け…ですか💦 勿論大丈夫です。更に、どんなに真似ても、PCで作ったり、録音音声では認証できません」
「へ〜指紋や顔認証より良さそうじゃない。何でスマホとかにはないの?」
「そうですね…生体認証には、『顔認証』『指紋・掌紋認証』『指紋・指静脈認証』『声認証』『耳音響認証』『虹彩認証』の6つがあり、声による認証は、目による虹彩認証並みに設備が高額なのです。因みにあのTERRAでは、これらを複合した『マルチモーダル認証』が使われています」
「さすがね💧」
よく分からないが、凄そうなことは分かった咲。
「では、画面のここに触れて、何か喋ってください…と言われても困るでしょうから、これでも読んでください」
荒垣が店のメニューを渡す。
「こんなんでいいんすか?」
「はい。ここからここまで」
照れながらも辿々しく、メニューを読む原田。
画面に認証完了が表示され、直ぐにスマホに案内情報が送られて来る。
「さてと、問題はここからですね、昴さん?」
「あ…はい、すみません、ちょっと来客中で」
「こんな時間に?」
「咲さん、明日話します。今はそちらを」
「分かった、そっちは任せるわ」
昴の指示に従い、専用のクラウドシステムに入り、『Hunter』サイトを開く。
幾つか登録し、運転免許証を登録すると、バーチャルオフィスが現れ、ドアが開いた。
「ようこそ、原田岬さん。私はここのオーナーミカエルです。岬さんのアバターは、今は免許証の写真と、カメラからの映像を元に、この様になっています」
リアリティの高いアバターに驚く皆んな。
「何だか…恥ずかしいっすね」
「アハッ、皆さんそう言います。アバターは、画面下のこのボタンで、カスタマイズできます。とりあえずこちらへ」
更に奥の部屋へと入り、テーブルに座った。
「簡単な確認と、この部屋について説明します。まずは、ご職業は…ヤクザでよろしいですか?」
真面目に書いた原田。
偽ってもバレるのは見えていた。
荒垣が、話す様にジェスチャーを送る。
「はい、ヤクザです」
隣で笑いを堪える咲と神。
ママが人差し指を唇に当てて注意した。
「お仲間さんもいますから、安心してください。問題ありません。仕事の依頼は、メールで携帯に送ります。早速テストですが、まずはこの中から好きな車を選んで下さい」
壁が開き、複数のスポーツカーが並んでいる。
昴が峠の車に気付き、原田は昼間の赤いポルシェに気付いた。
「凄いっすね、本物みたいだ」
「本物からスキャンしたものですから、実物を使って貰います」
「マジっすか! じゃあ、このシルバーのフェラーリをお願いします」
フェラーリPUROSANGUE
「さすがですね、入荷したばかりです。では、今夜早速テストを行います。もし、事故を起こしたり、警察に捕まった場合は、除名処分とし、一切の保証も手当もありませんので、よろしくお願いします」
有無を言わせず席を立ち、出口まで見送る。
「場所と時間と内容は、携帯に送りました。お気をつけて頑張って下さい」
強制退出となり、サイトが閉じられた。
「なるほど、テスト次第でサイトは開くと言うオフィス形態ですね」
原田が届いたメールを開く。
『21:30 新宿駅南、東京総合病院の地下駐車から出る、この車を追え。岬さんの車は駐車場出口に停めてある』
車の写真が添付されていた。
時計を見る。
「急げ原田」
出て行く原田。
タブレットに昴からの衛星画像が届く。
新宿駅周辺から、ズームアップする。
「驚いたな」
既にシルバーのフェラーリが停まっていた。
「恐らく他を選んでも、これに導くつもりだったのでしょう」
「いや違うな。ヤツら、原田が昼間のドライバーだと分かってやがる。そして、原田の好みがシルバーだと知っていた」
「つまり神、こいつらが昼間の?」
「咲さん、それだけじゃなく、他の煽り殺人動画も彼らです。それに使われた車もありました」
昴が白和泉遼子の件を伝えた。
耳の超小型通信機で、みんな繋がっている。
「さぁ原田、腕の見せどころだぜ」
「任せて下せぇ!…って、どうすれば?」
「………」
見つめ合う神と咲。
まさか、即実践とは思っていなかった。
と、その時。
「話は聞いたわ、任せて」
「桐谷?」
「怪しい車をつけてたら、当たりだったのよ」
フェラーリ好きの桐谷。
現れた新車のナンバーを調べ、偽造と気付いた。
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