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【4】バーチャル・リアリティ
〜警視庁特別検査本部〜
翌朝。
TERRAからいつものモーニングサービス。
「ちゃんと私の分まで…ありがとうございます」
「いえ、花山警視総監様の気遣いです」
「なるほど、さすがです」
(そう言えば、本庁からここに越したとか…)
「さて、皆んな揃ったから、昨日までの状況を共有し、作戦を練るわよ」
咲の声で、会議室に集まる皆んな。
眠そうな昴が最後に入る。
「また顔がキーボードになってるわよ💧」
調べながら寝た昴の顔半分には、キーボードの跡がくっきりと残っている。
「でも…いつもは左だけど、今日は右だな」
「私にも学習機能ってのがありますからね。ワンパターンは避けました…無意識ですけど」
「それなりの収穫はあったの?」
何かを見つけるまでは眠らない昴。
キーボードの意味を、真田以外は知っている。
「では」
と立ち上がったところに…
「すみません、遅くなりました!」
「凪原さん! 本当に帰らなかったんですか?」
「誰よ、あなた?」
朝から邪魔されると機嫌が悪い咲。
それも2日続けてとなると、尚更。
「神奈川県警の凪原さんです。昨夜、1年前に起きた白和泉遼子さんの事故が、煽り運転だと分かり、詳細を伝えに来てくれたんです」
すかさず紗夜が説明した。
「あぁ、あの時の…」
「富士本部長さん、ご無沙汰してます。昨日SNSに投稿された煽り運転の映像が、白和泉遼子さんの件だと分かり、事故ではなく殺人事件として、再捜査することになりました」
白和泉財閥の党首であり、遼子の父、白和泉 保都《たもつ》は病死しているものの、マスコミが騒ぐことは目に見えており、現白和泉建設の社長から、神奈川県警に圧力がかけられた。
「神奈川県警の小出部長から、今朝早くに連絡がありました。彼とは同期でね、1人送るから、操作に協力させてくれとのことだ。皆んな宜しく頼む」
「彼女の事故には不審な点があり、私は独自に調査していたんです。よろしくお願いします」
深々と頭を下げる凪原。
彼の情報が、捜査の方向を大きく変える。
「人手は足りないから助かるわ。紗夜、後でビル内と装備などを教えてあげて。じゃあ昴、続きを始めて」
「凪原さん、ここに座ってください。タブレットはこれを、設定はしてあります。それから、これはTERRAからの支給品なんだけど、イヤホン型通信機です」
「ありがとうございます。隣にあのTERRAコーポレーションのビルがあるんですね、驚きました」
彼もトーイ・ラブの熱烈なファンである。
「早速ですが、凪原さんから貰った情報です。1年前、芦ノ湖CCから始まった、全日本アマチュア女子ゴルフ選手権大会。初日単独首位に立ったのは、初出場の白和泉遼子。あの白和泉財閥の中心、白和泉建設社長の長女です」
関連する資料や写真がモニターに映り、各自のタブレットにも送られる。
「取材陣に捕まり、移動が遅れた彼女は、自分の車で次の会場へ向かう途中、神奈川県長尾峠で事故により死亡。それがこの煽り屋の仕業だと、投稿サイトの動画で判明しました」
事故映像から、仲間の声の部分までを再生した。
「後続車が撮影とは、昨日と同じね」
「はい。因みに彼らが話している、グリーンやシェイクダウン、ダンプなどはレーサー言葉で、このグループはレーシングチームか、その経験があるメンバーだと言えます」
「間違いないわね、あの走りは明らかにA級レーサーのものよ」
「それを振り切って、先回りまでした桐谷、あんたって何者よ! CIAってやっぱそうなんかな…」
ニコリと笑顔を返す桐谷。
「それから、白和泉遼子さんが煽られてた頃。芦ノ湖CCで、優勝候補だった川坂すみれさんが遺体で発見され、自殺と断定されました」
写真が映され、思い出す富士本。
「なんてこった。まさか、またあの可哀想な死に顔を見るとはな」
「豊川さん!」
鑑識部と科捜研部の部長、豊川勝政。
刑事課は3階にあり、部屋の奥に4階の豊川達がいるフロアと繋がる階段があった。
彼もまた、現場に居合わせた1人である。
「資料に、アレが抜けてるな」
紗夜を見る豊川。
「遺書ですね。恐らく、白和泉財閥の圧力で、握り潰されたのでしょう」
「筆跡鑑定でも、彼女が書いたものではありませんでしたし、覆す証拠もなく…」
「また新顔か? あの部屋のペンとは違うインクだったし、丸めて投げ込まれてたんだ。彼女が書いたものじゃないことは、あの時分かっていたが…その様子じゃ、紛失したってとこか」
悔し気にうなずく凪原。
その時、紗夜がモニターにそれを映した。
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