【1】Provocation〜煽り〜

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トンネルに入ると、その狭さを思い知る。 照明が無いため、1人で走りたくないのは確か。 「やっぱ…ヤな雰囲気ね」 黙り込んだ遼子に、思わず声を掛けた時。 「眩しっ❗️」 突然バックミラーを照らしたハイビーム。 2人の直ぐ後ろに、ヤツが居た。 「何なのよ!無灯で追って来たって〜の?」 激しく煽り立てるエンジン音。 少し離れては、直ぐぶつかる程にピタリとつく。 「姉さん、どうしたらいいの?」 「とにかくアクセル踏み込んで!」 どうしたら?と問われても正解は無い。 条件反射的に右足を踏み込む遼子。 それを読んでるかの如く、離れない後ろ。 「あのライトの形と色。さっきの奴ね」 「峠の入り口で待ち構えてたのね、でも何で私なんかを! 私が何をしたって言うのよ!」 (この先は広くなったり狭くなったりの峠道…外灯もないし、この時間に車も期待できない…) 必死で喚きながら走る遼子。 その横で、冷静に考える。 ストレス発散に、愛車のフェラーリを飛ばし、何度も来た彼女は、逃げ場が無いことを悟る。 (こんなとこで止まるのも危険だし…) その僅かな時間が、2人の運命を変えた。 (しまった⁉︎) 「遼子ブレーキ❗️」 「えっ?」 登りから下りに変わった直ぐ先。 その瞬間、スピードメーターに目をやる。 (90キロ…曲がれない) 「キャァアアッ⁉️」「ギャギャギャ❗️」 遼子の悲鳴とタイヤの悲鳴が重なる。 「遼子ッ❗️」 「ヅガガガガ💥」 凸凹(デコボコ)のガードレールを押し曲げて進む。 「ガン、バンッ‼️」 激しい衝撃から訪れる、束の間の浮遊感。 そして感じる…死。 ガードレールから弾け飛んだミニバンは、細い木々をへし折り、真っ暗な林の中へと消えた。 「ギュルギュルギュギャギャギャ…」 ドリフトしながら白煙を上げるスポーツカー。 「ギュン!ブロロゥォオーン…」 ギリギリ曲がり切り、瞬時に加速して走り去る。 「キキキキー!」 その後に、黒のワゴン車が停まった。 慌てて3人が下りる。 「ドドーン💥🔥」 暗闇に爆炎が上がった。 「あっちゃー、ダメだなこりゃ」 「カケルさんもギリだったし…」 「やっぱ…グリーンじゃ無理があるぜ」 「救急車は呼んだから、さっさと行くわよ!」 「チッ!イイものってこれかよ!」 「全く、やられたぜ」 文句を吐きながら乗り込む3人。 チラチラ覗く炎を見ながら、走り去るワゴン車。 虚ろな意識の中。 その声を、彼女の耳は聴いていた。 (綺麗な…炎) 日頃からシートベルトの習慣はない。 フロントガラスを破り、投げ出されていた。 「りょ…遼子…ゥグワァ!」 身体に突き刺さった複数の枝。 激痛に呻いた視界が赤くなり…意識を失った。
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