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トンネルに入ると、その狭さを思い知る。
照明が無いため、1人で走りたくないのは確か。
「やっぱ…ヤな雰囲気ね」
黙り込んだ遼子に、思わず声を掛けた時。
「眩しっ❗️」
突然バックミラーを照らしたハイビーム。
2人の直ぐ後ろに、ヤツが居た。
「何なのよ!無灯で追って来たって〜の?」
激しく煽り立てるエンジン音。
少し離れては、直ぐぶつかる程にピタリとつく。
「姉さん、どうしたらいいの?」
「とにかくアクセル踏み込んで!」
どうしたら?と問われても正解は無い。
条件反射的に右足を踏み込む遼子。
それを読んでるかの如く、離れない後ろ。
「あのライトの形と色。さっきの奴ね」
「峠の入り口で待ち構えてたのね、でも何で私なんかを! 私が何をしたって言うのよ!」
(この先は広くなったり狭くなったりの峠道…外灯もないし、この時間に車も期待できない…)
必死で喚きながら走る遼子。
その横で、冷静に考える。
ストレス発散に、愛車のフェラーリを飛ばし、何度も来た彼女は、逃げ場が無いことを悟る。
(こんなとこで止まるのも危険だし…)
その僅かな時間が、2人の運命を変えた。
(しまった⁉︎)
「遼子ブレーキ❗️」
「えっ?」
登りから下りに変わった直ぐ先。
その瞬間、スピードメーターに目をやる。
(90キロ…曲がれない)
「キャァアアッ⁉️」「ギャギャギャ❗️」
遼子の悲鳴とタイヤの悲鳴が重なる。
「遼子ッ❗️」
「ヅガガガガ💥」
凸凹のガードレールを押し曲げて進む。
「ガン、バンッ‼️」
激しい衝撃から訪れる、束の間の浮遊感。
そして感じる…死。
ガードレールから弾け飛んだミニバンは、細い木々をへし折り、真っ暗な林の中へと消えた。
「ギュルギュルギュギャギャギャ…」
ドリフトしながら白煙を上げるスポーツカー。
「ギュン!ブロロゥォオーン…」
ギリギリ曲がり切り、瞬時に加速して走り去る。
「キキキキー!」
その後に、黒のワゴン車が停まった。
慌てて3人が下りる。
「ドドーン💥🔥」
暗闇に爆炎が上がった。
「あっちゃー、ダメだなこりゃ」
「カケルさんもギリだったし…」
「やっぱ…グリーンじゃ無理があるぜ」
「救急車は呼んだから、さっさと行くわよ!」
「チッ!イイものってこれかよ!」
「全く、やられたぜ」
文句を吐きながら乗り込む3人。
チラチラ覗く炎を見ながら、走り去るワゴン車。
虚ろな意識の中。
その声を、彼女の耳は聴いていた。
(綺麗な…炎)
日頃からシートベルトの習慣はない。
フロントガラスを破り、投げ出されていた。
「りょ…遼子…ゥグワァ!」
身体に突き刺さった複数の枝。
激痛に呻いた視界が赤くなり…意識を失った。
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