94人が本棚に入れています
本棚に追加
その時、刑事課の電話が鳴った。
「はい警視庁刑事課、事件?事故?」
素早く咲が取り、スピーカーに切り替える。
「……ごめんなさい、紗夜です」
「紗夜⁉️ どうしてこの電話に? て言うか、大丈夫なの?」
「皆んなに、聞いて貰いたくて」
「紗夜、富士本だが、まだ事件からは離れて、ゆっくり休んでていいんだ」
気遣いながらも、そんな風に出来ないことは、皆んな分かっていた。
「犯罪者とは、違う感情…があるとしたら?」
自信なさ気に、呟く紗夜。
「悪こそ正義、と言うことですか。全く違う次元の倫理ですが、もしあるとしたら、厄介ですね」
紗夜の問いに、真田が答えた。
そしてそこに、忘れられない疑念が浮上する。
「紗夜さん。多分あなたには、気を失うほどのことなのだと思います。でもどうしても私は知りたい。知らないといけない気がするのです」
「真田…」
真田を止めようとした淳一。
しかし、付き合いが長い分、その思いは真田よりも強く、大きな蟠りとなっていた。
「俺からも頼む。辛いだろうが思い出して、教えてくれ。紗夜はあの時、梢枝の心に何を視て、何を感じたんだ?」
もう尋ねた後悔より、必然性への感覚が勝った。
暫しの沈黙が、長く感じられた。
「あの…時…」
小さな声が震えている。
「あの時私は、得体の知れない恐怖を感じた。梢枝さんの心はそこにはなく、別のモノが…居た」
息づかいが荒くなるのを、必死に抑えようとしている呼吸音が聞こえる。
「彼女ではない、別の…モノ?」
沈黙を避ける様に、咲が繰り返した。
「あれを『悪』と呼ぶのは簡単。でも、そんな一文字で表せるほど、小さくはないモノ。『悪魔』ならまだ近いかも知れません」
「悪魔…ですか」
刑事課が関わった事件には、悪魔が関わったものも、幾つかあった。
「私の右手にも、悪魔は居ます。その力があったからこそ、私は救われました。七森華奈さんも、悪魔と契約し、ルシファーの化身となった。菊水千尋さんも邪神阿修羅と化して、悪魔の復活を命をかけて防ぎました」
真田や久宝、桐谷には、断片的な情報しかないが、それらが真実であると感じた。
「アレは、それらとは全く違い…」
紗夜の言葉が途切れた。
次に語られる真実に緊張が走る。
「私に…似ている」
予想外の言葉への衝撃と、奇妙な違和感。
対処できない脳が、一瞬思考を止める。
「そして、私は以前にも…アレに出会った。あの異様な感覚は、今でも忘れていません。同一人物であるはずはない。でもソレと同じモノに…再び出会ってしまった…」
意味深な紗夜の言葉に息を呑み、耳を澄ます。
「プルルルル❗️」
突然、刑事課の内線電話が鳴った。
「うわっ⁉️」
そのタイミングに、驚く皆んな。
「全く…やめてよねホント」
ぶつぶつ言いながらも、いつも通りに取る咲。
「はい警視庁刑事…あ、内線だったわね」
「はい…今、受付にお客様がお見えですが、お連れしてよろしいでしょうか?」
昴が監視カメラ映像を映す。
見覚えのある男性が1人。
「彼は確か…高嶺ワールドトレーディングの高嶺 真純社長じゃないか」
富士本が思い出した。
「ごめん紗夜、大事なところなんだけど…」
「高嶺真純さんは…多分…1人ね?」
「えっ? そう…だけど?」
紗夜には、その訪問の意味が分かった。
そして、これが始まりだということを確信した。
「私が最初に会ったアレは、高嶺…雅です」
「そんなっ⁉️」
まさかの名前。
タイミングよく現れた高嶺真純。
不思議な因縁を感じた。
最初のコメントを投稿しよう!