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〜闘技場〜
14.55m四方に敷き詰められた50枚の畳。
その中央に9.1m四方のラインがある。
それを囲む観客達が、選手入場に沸き立つ。
異種格闘技戦の会場に、2人が現れる。
「西方挑戦者、鳳神!」
アナウンスが響き、道着姿の若者に声援が飛ぶ。
出場回数が多いせいか、応援も多い。
「頑張れよ〜!」
「畳の上は日本だ、今日こそはぶちのめせ!」
クールに拳を挙げ、それに応える。
「東方チャンピオン、李・張静!」
「ウォー❗️」
鳳神を遥かに上回る歓声が響き渡る。
美しい憲法着姿に、黄色い声援も混じる。
畳の手前で一礼し、柔軟な体を見せつけるかの様に手足を動かしながら、四角い枠へと入る。
向かい合った2人。
右手を左の拳に重ね、目の前に組む張静。
両の拳を脇を絞めて腰に当て、「押忍!」と気合いを入れる鳳神。
「レディ…ファイト❗️」
得意の回し蹴りの連発を予測した観客。
張静も同じく。
しかし、今日の彼は違った。
「破っ!」
右足を一歩踏み出した次の瞬間。
強烈な左足の前蹴りが、意表を突かれた張静の真正面を襲う。
「ヅシンッ!」「ズズズ…」
「クッ!」
左足を引いて両腕を顔の前で合わせ、その一撃を受け止めた張静の体が、後方へと押される。
(違う…)
受けている足の荷重の動きで、それを悟った。
受けさせた左足を支点に、踏み切った右足で上へ跳び、空中で前転する鳳神。
両腕を前に、顔を下げている張静の頭上。
その死角から、高速の右膝が振り下ろされた。
(決まった!)
と誰もが思った瞬間。
踏み留めていた右足で、後方に下がりながら、髪に触れた上からの膝に合わせて前転する張静。
『消力』。
極限の脱力により、身体を羽毛の様に無抵抗なものとし、打撃を受け流す体術。
「何っ!」…「ズシンッ!」
空を切った形で、畳にめり込む膝。
その後頭部へ、張静の左足の踵が振り下ろされた。
「グァシンッ❗️」
踵と畳の間で意識を失う鳳神。
一瞬一撃で決まった勝負。
大歓声と勝利宣言が響き、去って行く張静。
〜警視庁特別対策本部 刑事課〜
「またダメだー❗️」
PCの前で叫ぶ神崎昴。
「またって昴、あんた何回も負けてんの?だいたいねぇ、私の鳳来の鳳に、飛鳥 神の神って名前はやめてよね💧」
後ろで観戦していた鳳来咲。
飛鳥神は、関東を束ねるヤクザ、飛鳥組の組長でもあり、咲の秘密?の恋人である。
「強そうな名前を考えたんですけどね…しかし、彼女強すぎ! だいたい消力なんて、漫画の中の技ですよ!」
「いや、前にラブの試合を見たが、似た様なかわし技を使っていたぜ」
淳一達は、以前にテレビで、格闘する彼女の強さを観て知っている。
トーイ・ラブ。
世界的なエンターテイナーで、隣のTERRAコーポレーションの社長でもある、最強のヒロイン。
「その張静って、意外とラブさんだったりしてね」
「久宝さん、ラブさんはそんな暇はないわよ」
その紗夜の呟きに、TERRA支給のイヤホン型通信機が答えた。
「暇で悪かったわね、紗夜」
「り…凛さん⁉️」
トーイ・ラブのマネージャー兼ボディガード。
新咲 凛。
元は暗殺者の箔・傅凛である。
「ラブがTERRAで収録中やコンサート中に、時間潰しとトレーニング兼ねてやってんのよ」
バーチャルゴーグルとコントローラーでプレイしている昴とは違い、CVW社のバーチャルシステムを部屋に仕込み、全身にモーションキャプチャースーツを着用して、実際にバーチャルの相手と闘っている凛であった。
「凛さんだったんですかぁ〜強いわけだ」
「弱いけど根性あると思ってたら、昴だったとは…世間は狭いわね」
「さてさて、もう休憩は終わり。真田も帰って来たみたいだし、対策会議を始めるわよ」
エレベーターから出てくる彼を見て、咲が皆んなを刑事課フロアにある、ガラス張りの会議室へと集めた。
「その件だけど、手を貸す様にラブから指示されてるから、私も参加するわ。CVW社とは技術提携を結んでいるからだとか…」
「了解、大歓迎よ。またよろしく凛」
TERRAとこの警視庁ビルは、3階と地下1階で繋がっていて、何件もの事件を共に解決して来た。
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