【2】仮想空間の犯罪者

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〜闘技場〜 14.55m四方に敷き詰められた50枚の畳。 その中央に9.1m四方のラインがある。 それを囲む観客達が、選手入場に沸き立つ。 異種格闘技戦の会場に、2人が現れる。 「西方挑戦者、鳳神(ホウジン)!」 アナウンスが響き、道着姿の若者に声援が飛ぶ。 出場回数が多いせいか、応援も多い。 「頑張れよ〜!」 「畳の上は日本だ、今日こそはぶちのめせ!」 クールに拳を挙げ、それに応える。 「東方チャンピオン、()張静(チャンジン)!」 「ウォー❗️」 鳳神(ホウジン)を遥かに上回る歓声が響き渡る。 美しい憲法着姿に、黄色い声援も混じる。 畳の手前で一礼し、柔軟な体を見せつけるかの様に手足を動かしながら、四角い枠へと入る。 向かい合った2人。 右手を左の拳に重ね、目の前に組む張静(チャンジン)。 両の拳を脇を絞めて腰に当て、「押忍!」と気合いを入れる鳳神(ホウジン)。 「レディ…ファイト❗️」 得意の回し蹴りの連発を予測した観客。 張静(チャンジン)も同じく。 しかし、今日の彼は違った。 「破っ!」 右足を一歩踏み出した次の瞬間。 強烈な左足の前蹴りが、意表を突かれた張静の真正面を襲う。 「ヅシンッ!」「ズズズ…」 「クッ!」 左足を引いて両腕を顔の前で合わせ、その一撃を受け止めた張静の体が、後方へと押される。 (違う…) 受けている足の荷重の動きで、それを悟った。 受けさせた左足を支点に、踏み切った右足で上へ跳び、空中で前転する鳳神。 両腕を前に、(おもて)を下げている張静(チャンジン)の頭上。 その死角から、高速の右膝が振り下ろされた。 (決まった!) と誰もが思った瞬間。 踏み留めていた右足で、後方に下がりながら、髪に触れた上からの膝に合わせて前転する張静。 『消力(シャオリー)』。 極限の脱力により、身体を羽毛の様に無抵抗なものとし、打撃を受け流す体術。 「何っ!」…「ズシンッ!」 空を切った形で、畳にめり込む膝。 その後頭部へ、張静(チャンジン)の左足の(かかと)が振り下ろされた。 「グァシンッ❗️」 踵と畳の間で意識を失う鳳神。 一瞬一撃で決まった勝負。 大歓声と勝利宣言が響き、去って行く張静。 〜警視庁特別対策本部 刑事課〜 「またダメだー❗️」 PCの前で叫ぶ神崎昴。 「またって昴、あんた何回も負けてんの?だいたいねぇ、私の鳳来(ほうらい)の鳳に、飛鳥(あすか) (じん)の神って名前はやめてよね💧」 後ろで観戦していた鳳来咲。 飛鳥神は、関東を束ねるヤクザ、飛鳥組の組長でもあり、咲の秘密?の恋人である。 「強そうな名前を考えたんですけどね…しかし、彼女強すぎ! だいたい消力(シャオリー)なんて、漫画の中の技ですよ!」 「いや、前にラブの試合を見たが、似た様なかわし技を使っていたぜ」 淳一達は、以前にテレビで、格闘する彼女の強さを観て知っている。 トーイ・ラブ。 世界的なエンターテイナーで、隣のTERRAコーポレーションの社長でもある、最強のヒロイン。 「その張静(チャンジン)って、意外とラブさんだったりしてね」 「久宝さん、ラブさんはそんな暇はないわよ」 その紗夜の呟きに、TERRA支給のイヤホン型通信機が答えた。 「暇で悪かったわね、紗夜」 「り…(りん)さん⁉️」 トーイ・ラブのマネージャー兼ボディガード。 新咲(しんざき) (りん)。 元は暗殺者の(ハク)傅凛(フーリン)である。 「ラブがTERRA(うち)で収録中やコンサート中に、時間潰しとトレーニング兼ねてやってんのよ」 バーチャルゴーグルとコントローラーでプレイしている昴とは違い、CVW社のバーチャルシステムを部屋に仕込み、全身にモーションキャプチャースーツを着用して、実際にバーチャルの相手と闘っている凛であった。 「凛さんだったんですかぁ〜強いわけだ」 「弱いけど根性あると思ってたら、昴だったとは…世間は狭いわね」 「さてさて、もう休憩は終わり。真田(さなだ)も帰って来たみたいだし、対策会議を始めるわよ」 エレベーターから出てくる彼を見て、咲が皆んなを刑事課フロアにある、ガラス張りの会議室へと集めた。 「その件だけど、手を貸す様にラブから指示されてるから、私も参加するわ。CVW社とは技術提携を結んでいるからだとか…」 「了解、大歓迎よ。またよろしく凛」 TERRAとこの警視庁ビルは、3階と地下1階で繋がっていて、何件もの事件を共に解決して来た。
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