11.グリーンティー・アイス・ミルク

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11.グリーンティー・アイス・ミルク

 拍手をしながらバニラ王子に近付いて声をかけたのは、この王国の宰相だ。  魔法使いの国(アイス・ランド王国)の宰相。  グリーンティー・アイス・ミルク(36歳)。  血の気が薄い青白い肌、鼻筋の通った端正な顔立ち、細身で長身の体躯、緑茶(りょくちゃ)色の髪を後ろに撫で付け、険しく神経質そうな黄緑色の目には片眼鏡(モノクル)が掛けられている。  そんな宰相がにこやかにバニラ王子に話しかけると、大勢に見られていた事に気付いていなかったらしく、バニラ王子は恥ずかしがって照れ笑いをしている。 「宰相殿、ありがとうございます。……新しい魔法を学ぶのがとても楽しくて、ついつい没頭してしまいました」 「うむうむ。バニラ殿下は魔法の素養も高く、勤勉なのはとても素晴らしい事です。この王国の未来も明るいですな」 「少し練習するつもりが、まさかこんなに見られているなんて……お恥ずかしいです……あはは……」 「うむうむ。そうですな、バニラ殿下はこの王国の光ですから常に注目の的です。本日は国王誕生祭ですから、より多くの人々が集まっておりますし、尚の事でしょう。……勤勉なのは良いのですが、程々になさいませんとな――」  宰相がバニラ王子を褒め称える姿を後目に、僕は魔法を間近で見れた事にドキドキワクワクソワソワとしていた。  ゲームで使っていた魔法を実体験として目の前で見られたのだから、それは興奮しても仕方ないと思うのだ。 (魔法だ! 本物の魔法だ!! いいなぁ、僕も魔法が使えたらいいのに……)  魔法使いの国の中でも、絶大な魔力を持つとされる王族の血筋に生まれながら、僕にはほとんど魔力が無かった。  魔力の無い出来損ないに魔法の教育係など付く筈もなく、僕は誰からも魔法を教わった事が無い。  ほぼほぼ、僕は離宮に押し込められ放置されているので、魔法の素養だけではなく王侯貴族の教養といったものも皆無なのだ。  それに引き替え、強大な魔力を持つバニラ王子は王宮で大切に育てられていて、魔法や教育など望むだけ学べる環境が整えられている。  そんなバニラ王子が羨ましく思えて、僕は少しだけ切ない気持ちになってしまう。 (いいなぁ、魔法使ってみたいな……もし、僕が魔法を使えたら、沢山の人に注目されて、褒めて貰えたりするだろうか……まぁ、そんな事にはならないだろうけど……それでも、見よう見まねで真似したら、少しは魔法使えたりしないかな?)  魔力がほとんど無い僕は、発動もしないだろうと思いながら、バニラ王子が唱えた魔法詠唱を何気なく呟いてみた。 『えぇっと……我が魔力を以て凍て付く風を起こせ。【氷結疾風(アイス・ストーム)】』  僕の僅かな魔力が冷気となって、掌に集まってくる。  発動した魔法に僕が感動するのも束の間、対象を定めていなかった為か魔力がポフンと破裂してしまい、僕の目の前にあったメイド長のお尻をヒンヤリと冷やしてしまった。 「ひぃやぁっ!? な、何をなさるんですか! 第一王子!!」  突然、悲鳴を上げたメイド長がお尻を庇い、僕を睨みつけて怒鳴り声を上げる。  僕はまさか魔法が使えると思っていなかっただけに、慌ててメイド長に謝る―― 「あっ、ご、ごめん……なさ……ぃ…………」  ――のだが、メイド長の怒鳴り声で一斉に注目が僕に集まり、僕はヒエッと竦み上がる。  バニラ王子を見ていた温かい羨望(せんぼう)の眼差しは、冷たい侮蔑(ぶべつ)の眼差しへと変わり僕を突き刺した。  ツキンッと視線が冷たくて、ツキツキと身が凍えるように痛いと感じて、僕の身体は勝手に震えてしまう。 (……寒い……痛い……そんな目で見ないで……僕を見る目が、怖い……)  カツン、カツンと鷹揚(おうよう)に近付いてくる足音が聞こえると、集まっていた人集りがモーゼの十戒の如く道を開けて行く。 「これはこれは、誰かと思えば。第一王子ではありませんか」
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