09.アイス・ランド王国の氷城

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09.アイス・ランド王国の氷城

 メイド長の後に続いて、僕はまた必死に歩いて付いて行く。  ぽよん、ぽよん、ぽよよん、ぽよん、ぽよよん、ぽよよよん。 「ふひ、ふひっ、ふひ、ふひっ、ふひ、ふひっ」  離宮を出てしばらく歩いて行くと、それはそれは大きなお城が見えてくる。  前世の日本人の感覚からすれば、離宮も十分広くて豪華なお城に思えるのだけど、このお城とは比較のしようがないほどに雲泥(うんでい)の差があった。  光り輝く白銀(はくぎん)の雪を思わせる城壁に、色取り取りの煌めく繊細な装飾が施されていて、とても華やかで美しい、洗練された氷細工の雰囲気がある。  壮大で荘厳(そうごん)な、溶けぬ魔法がかけられた氷像のお城。  それが、アイス・ランド王国の王宮だ。  ぽよよん、ぽよん、ぽよよん、ぽよん、ぽよよよん、ぽよん。 「ふひ、ふ……ふひ……ふひ、ふ……ひふ……ふ、ひ……ひふ」  だが、歩いても歩いても、なかなか辿り着かない。王宮、遠すぎる。  王宮があんなに大きく見えているというのに、僕の歩幅が小さいせいか、歩いても歩いても近づいている気がしない、摩訶不思議(まかふしぎ)である。  ぽよん、ぽよよん、ぽよん、ぽよよよん。…………ぽよ。 「ふひっ……ふひぃっ……ふひっ……ふひぃっ…………ふひーっ…………」  しばらくして、やっとの思いで辿り着いた頃には、僕はへとへとのくたくたになっていた。  王宮の入口に着いて一息吐いていると、入口付近にいた者達が珍獣でも見るような目を僕に向けてくる。  式日でもない限り僕が王宮に近づくことはまず無いので、僕の姿を見るのは珍しいのだろう。  誕生祭に参加する貴族達だろう、息を荒げている僕に嘲笑う視線を向け、ひそひそと陰口を囁き始める。 「……見てくださいよ、アレ。……恥知らずが今年も誕生祭に参加するようですよ……くすくす……」 「……まぁ、また一段と肥え太ったわねぇ……醜く肥え太って……あぁ、気持ち悪い……嫌だわぁ……」 「……あんなに息を荒げて、野獣かと思いましたよ……いや、魔法の素養も無いのですから、野獣のようなものですかね……ふふふふ……」 「……正に野獣のような(おぞ)ましく醜い姿じゃないですか……息を荒げて、きっと飢えているんですよ……私達まで餌と思って襲ってくるかもしれませんよ? 気を付けなければ……くくくく……」 「……やだぁ、怖い……飢えた野獣だなんて……気持ち悪いわぁ……早くどこかに消えてくれないかしらぁ……くすくす……」 「はは、心配などいりませんよ。ろくに魔法も使えない出来損ないに襲われたところで、痛くも痒くもないですからね……あはははは」  随分な言われようである。  そんな陰口が聞こえて、僕はスンと遠い目をしてしまう。 (後半なんてもう声が抑えられてなくて、普通に話してるからね? 馬鹿笑いしてたからね? 丸聞こえだからね、君達?)  僕は見ず知らずの赤の他人にまで、酷く嫌われて蔑まれているのだ。  それだけ僕の悪評は世に広まり、定着してしまっているということなのだろう。  これまでの白豚王子なら、陰口に慣れているとはいっても、流石に堪りかねて怒り狂い、暴れ出していたかもしれない。 (でも、僕はそんなことを言われても怒らないよ! 良き白豚王子になるんだから!! 善良な白豚王子になったんだからね!!!)  メイド長が入口の受付係に話しかけ、入場手続きのやり取りをしている。  受付係は僕を一瞥すると、メイド長に小声で話しかけ苦笑いしていた。 「ああ、第一王子ですか……それは、貴女も大変なお務めですね。ご苦労様です、ははは……では、手続き受け承りました」  (あん)に『問題児の世話をするのは大変ですよね』といった意味の言葉を、メイド長に話しかけたのだろう。  僕はそんな受付係に『良い子になった白豚王子だよ!』と念じて、キラキラとした熱視線を送ってみる。 (僕こんなに散々言われても怒ったりしてないよ! 良い子にしてるよ!! 人畜無害で善良な白豚王子だよ!!!) 「ふんっ! ふんっ!! ふんっ!!!」  鼻息荒く糸目で凄んでしまい、ちょっとズモモモモと背景に効果音が付きそうな感じになってしまったけど。 「……っ……ど、どうぞ中へお入り下さい」  僕がじっと見つめていたら、たじろいで苦笑いをした受付係にそそくさと入場を促されてしまった。 (あれ? ちょっと失敗したな)  仕方なくメイド長の後に続き、僕は王宮内へと足を踏み入れたのだった。  ◆
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