10.バニラ・アイス・クリーム

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10.バニラ・アイス・クリーム

 王宮内は内装も壮観な美しさだった。  美しく繊細な彫刻が施された大きな白銀の氷柱が幾つも建ち並び、クリスタルと見紛う煌めきを放っている。  遥か高い天井からは木漏れ日のような揺らめく光が差していて、王宮内を明るく照らしていた。  魔法が掛けられた壁や柱は溶けることがなく、年中快適な温度・湿度・環境に保たれているのだ。  氷城の美しさに僕は感動して、左右を見回したり天井を見上げたりと、落ち着きなくキョロキョロしてしまう。 (わぁー、すごい! こんなにキラキラしてたっけ? キレイだなぁー)  余所見をして歩いていたせいで、立ち止まってしまったメイド長に気付かずに、僕はぽよんと軽くぶつかってしまった。 「んぶっ…………ぶ?」  なんだろうかと、前方を見ると結構な人集(ひとだか)りが広い通路の半分を埋めていた。  もう半分の通路は埋まってないので通ろうと思えば通れるのだが……どうしたんだろうかと、僕はメイド長を窺う。  すると、メイド長は頬を薄っすらと染め瞳を輝かせて、他の人々と同様に通路の外に視線を向けていた。  その視線の先を追い、僕も中庭であろう広間へと視線を向けて、目を奪われてしまう。  そこにあったのは、前世の僕がよく知る少年の姿だった。  聞き覚えのある声、だが少し幼いその声。 『氷と風の精霊よ、我が魔力を以て()て付く風を起こせ。【氷結疾風(アイス・ストーム)】』  魔法を詠唱する声がすると同時に、その少年の周りを渦巻くように冷気が集まり、手をかざした前方のものを一瞬にして凍り付かせた。  少年が手をかざした前方5メートルにも及ぶ地面がガキンッと凍り付き、氷の道ができている。  氷の道はキラキラと眩しい光りを反射して、風に靡く少年の髪を彩っていた。  その魔法は、魔力が多く素養が高い程にその威力は強大になり、効果範囲も広くなる魔法で、僕はゲームでよく使っていた。  一瞬の静寂(せいじゃく)の後、一斉に喝采の声が上がり、少年を見物していた者達から溢れんばかりの拍手が送られる。  少年は周囲に気付き顔を上げると、気恥ずかしそうにしながら振り返り、拍手喝采する者達へと手を振って応える。  彼は、魔法使いの国(アイス・ランド王国)の第二王子。  バニラ・アイス・クリーム(10歳)だ。  (まばゆ)い白金のサラサラな美しい髪、シミ一つ無い白く滑らかな肌、光輝く白金の瞳。  甘いマスクは幼いながらに美形、正に王子然としているその姿、清廉潔白(せいれんけっぱく)品行方正(ひんこうほうせい)を絵に描いたような王子様なのだ。  白豚王子とは二歳差なのだが――言うまでもなく雲泥の差である。  彼もまた、ゲームの登場人物であり、攻略対象でもある、ヒーロー役だ。  ゲームではバトルもあり、魔法で全体攻撃が可能で育てれば火力も高くなるこのキャラクターを、僕は好んでパーティーに入れていた。  使っていたゲームのキャラクターが、実在する人物として目の前にいることに、僕は感激してしまう。  糸目をキラキラと輝かせて僕が感動していると、群衆の中からバニラ王子の前へと誰かが歩み出て行く。 「いやいや、(よわい)10歳にしてこの威力とは、素晴らし過ぎて感服の至りですな。バニラ殿下の将来が楽しみでなりません」
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