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02.僕は嫌われ者の王子様
……――――時は遡ること数年前。
大好きなスイーツ、あれもこれも美味しい、甘いものは幸せの味。
僕は幸せな気持ちでスイーツを頬張る。
「もぐもぐ、ぺろぺろ、さくさく、かりかり、ぱりぱり、ごくごく――」
でも、そんな幸せな気持ちは長続きしない。
「――ごっくん。……」
また、スイーツが無くなってしまった。
沢山あったはずのスイーツも、食べてしまえば幸せな気持ちと一緒に消えて無くなってしまう。
空になってしまった皿を眺め、僕は落胆して溜息を吐く。
「……はぁ……」
庭園にあるガゼボのガーデンテーブルで、いつものように僕は一人で席に座り、お茶の時間を過ごしていた。
辺りを見回してみても、近くに人の気配はなく、ガゼボの周りは閑散としている。
少し逡巡した後、僕は呼び鈴を鳴らして給仕係を呼び付けた。
「足りない! もっと、もっと、沢山スイーツ持ってきて!!」
「……本日のスイーツは先程のものでお終いになります」
僕は憤慨して、テーブルを両手でバンバンと叩き、給仕係を怒鳴りつける。
「うるさい! 僕が持ってきてって言ったら持ってくるんだ!! 僕は王子で、お前達は召使いなんだから! 黙って僕の言う通りにすればいいんだ!!」
「……かしこまりました」
癇癪を起こす僕にうんざりした視線を向ける給仕係は早々に諦め、直ぐに追加のスイーツを取りに行く。
少しして、給仕係が追加のスイーツを運んできて、僕の前に並べていく。
目の前に並べられた沢山のスイーツに僕は目を輝かせ、嬉々として頬張り、その味に舌鼓を打つ。
「もぐもぐ、ぺろぺろ、さくさく、かりかり、ぱりぱり、ごくごく――」
スイーツを食べている間だけは、何もかも忘れて夢中になれる。
嫌なことも辛いことも何も考えなくていい、ただ幸せな気持ちに浸っていられるのだ。
「――ごっくん。…………あ」
それでも、食べ終わってしまえば、味気のない現実に引き戻されてしまう。
また空になってしまった皿を眺め、僕は意気消沈して項垂れる。
僕が項垂れていると、少し離れた所からひそひそと話す声が聞こえてくる。
「……あれだけあったのに、もう食べてしまったわよ……」
「……見てよ、あの肥え太った身体。どこまで太れば気が済むのかしら……」
「……あんな身体で、よく平気でいられるわよね。恥ずかしくないのかしら……」
「……恥知らずで卑しい出自ですもの……仕方ないわよ……くすくす……」
清掃のメイド達だろうか、声を潜めて陰口を叩き、僕を見て嘲笑っている。
この城内で僕へ好意を向ける者など誰もいない。僕は嫌われ者だ。
騒ぎを起こすか問題を起こすかでもしないかぎり、誰も僕に関わらないし、見向きもしない。
僕は自分の存在を知らしめるためにわざと声を張り上げて叫び、幸せな気持ちになれるスイーツを強請している。
そうすれば、益々嫌われると分かっていても、誰にも見向きもされないよりかは、少しだけましに思えるから。
そんな僕が陰口を叩かれるのはいつものことだ。そう思い、鼻を鳴らす。
「ふん」
陰口を叩かれ慣れているとはいえ、散々嫌味なことを言われて釈然とはしない。
僕は自分が着ていた衣装に、スイーツで汚れてしまった手を拭いて、嫌がらせをしてやることにした。
(メイド達め、衣装の手入れで大変になってしまえ!)
そんな僕の様子を見て、聞こえていると知ってか知らずか、メイド達はまだ僕の陰口を叩き続けている。
「……またあんなに汚して、品位の欠片もないわね。まるで汚い獣のよう……」
「……卑しく汚ならしい豚ね。本物の豚の方がまだ綺麗なんじゃないかしら……」
「……豚にも劣るなんて流石に言いすぎじゃない……仮にも王子よ……ふふ……」
「……なら丸々肥え太った白豚みたいな王子……白豚王子ね……くすくす……」
僕はその言葉を耳にした瞬間、ピシャーンッと雷に打たれるような衝撃を受けた。
『白豚王子』というワードで、僕は前世の記憶を思い出したのだ。――――……
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