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07.ふわふわ・もこもこ・わたあめ
(僕は転生してた!? ゲームの世界に転生していたんだ!!?)
前世の僕がはまっていたスイーツをモチーフにしたアドベンチャーゲーム。
そのゲームに登場していたキャラクター『白豚王子』こそが今世の僕だ。
『白豚王子』はゲームに登場する悪役だ。
僕は『悪役の白豚王子』に転生してしまっていたのだ。
ゲームの白豚王子は、いつも何か貪り食べている醜悪で傲慢不遜な王子だ。
人を貶めて苦しむ姿を見て喜ぶ性悪なキャラクターで、極悪非道な悪役。
(いやいやいやいや、確かに前世の最期に『美味しいスイーツが食べたい』って思ったよ? 思ったけど! 確かに白豚王子はスイーツいっぱい食べてるキャラクターではあるけど!! 破滅の未来しかないなんてあんまりじゃないかな!!?)
当然の事ながら、ゲームの悪役に明るい未来などあるはずはなく、無論、悪役である白豚王子に待ち構えているのは破滅の未来だ。
最終的に白豚王子は数々の大罪が暴かれ、断罪されて処刑される。
(どのルートに進んでも白豚王子は死ぬ! それはもう色々な処刑方法で死ぬ! バッドエンド・アンド・デッドエンド!! デッド・オア・ダイ!!)
白豚王子には破滅する末路しかないのだ。
僕は絶望の淵に立たされ、青褪めて白い肌が更に青白くなった気がする。
末路に待ち構えている処刑方法を思い出してしまい、僕はプルプルと恐怖に震えて涙ぐむ。
本人的にはうるうるしているつもりだが、糸目なので鏡に映る外見は変わらない。
(処刑なんて嫌だよー! 死にたくないよー!! どうにかして破滅を回避しないと……でも、どうしたら回避できるんだろう? どうしたら……どうしたら……)
思案してみるも何も良い案が思い浮かばず、余計に混乱してぐるぐる考え込んでしまう。
やがて、思考回路が限界突破して、プシューと蒸気を立ててオーバーヒートしてしまい――僕は現実逃避を始める。
(こんな時は、美味しいスイーツの事を考えて心を落ち着かせよう。うん、そうしよう)
僕を幸せにしてくれる愛しのスイーツ。
甘くて美味しい……ふわふわもこもこのわたあめ、わたあめがいっぱい。
わたあめが一つ、わたあめが二つ、わたあめが三つ、わたあめが四つ、――
ポン! ポンッ! ポポンッ! ポポポン!
――と考えていると、脳内でポップコーンが弾ける感じの音がして、白いわたあめ達が小さい白豚の姿に変身していく。
『ぶひ!』『ぶー!』『ぶう!』『でぶー!』
ぶひぶひと鳴声を上げながら小さい白豚達が一箇所に集まり、僕の頭の中で会議を始める。
『本日の議題は【どうしたら破滅を回避できるか】・ぶひ!』
『白豚王子がゲームの悪役なのが問題だと思うな・ぶー』
『悪役なのがいけないなら、悪役にならなければいいんじゃない?・ぶう』
『あむあむ、あむあむ、わたあめ、甘くて美味しいー・でぶー』
『悪役やめちゃえばいいんじゃないかな?・ぶー』
『あ、それ、いいね!・ぶう』
『そうだ! それがいい!!・ぶひ』
『あむあむ、あむあむ、わたあめ、無くなっちゃった……しょんぼり・でぶー』
(一匹わたあめ食べてるだけの奴も混ざってるけど……僕は脳内会議で名案が閃いた気がする。……あくまで気がするだけだけど)
『幸いな事に僕はまだ子供だ! 大罪を犯すような事はしてないはず!!・ぶひ』
『えーと待って、今、思い出してみる……うん、してない、してない!・ぶう』
『ならまだ間に合うと思うな。大丈夫、大丈夫!・ぶー』
『しょっぱい悪戯とか嫌がらせとかは、いっぱいしてるけどねー・でぶー』
『悪役をやめて善役……とまではいかずとも、人畜無害な白豚ですよってアピールしていこう!・ぶひ』
『僕は【悪い白豚王子】はもう止めて【良い白豚王子】になったんですよって、イメージ改善するのがいいね・ぶー』
『うんうん! 周囲の皆にアピッていこう!!・ぶう』
『がんばれー僕ー、応援してるー僕ー・でぶー』
(小さい白豚達よ、僕の代わりに有難う。そして、お疲れ様。はい、脳内会議終了。解散、解散)
脳内の小さい白豚達に手を振り散らして、僕は前向きに考える事にした。
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