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誰もいない路地裏。
黒で塗りつぶされた暗闇の中。
「本日は、誠にありがとうございました。」
「いえ、こちらこそ。」
表面だけの”笑み”を張り付ける。
生まれ変わったら俺は天才役者になれるな、と思いながら。
あと13.52秒後に俺の仕掛けが動く。
そうすれば、上で物音が鳴る。
人というのは、”音”に敏感だ。
無意識で音の鳴る方を向く。特に静かな時。
その目をそらした、ほんの小数点何秒かの間に、カバンの上に置かれた『紅玉葉』を俺が奪う。
そうすると、0.58秒後に、横のスピーカーから俺の音声が流れる。
マイクは俺の口元についているから、そのまま逃走しながらも会話は続行。
萩が俺の消失に気づいたころ、俺はもう遠くのかなたにいるわけだ。
完璧に計算しつくされた計画。
俺は孤高の天才詐欺師だ。
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