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二匹の妖怪
昔々のこと。
いや、今の時代もなのだが……
まぁいいや。
二口女という物の怪があった。
一つは表に口があり。もう一つが後頭部に隠されている大きな口。
この物の怪は、現代に置いてもよく見かける。
よく喋り、よく食べるのだ。
さて、そして今回登場するのは、のっぺらぼう。何を隠そう私自身がその物の怪だ。
特徴を話そう。
朝、起きてから夜、寝るまで一度も表情が変わらない物の怪だ。顔がないから当然なのだが……
居るのか居ないのかもよく分からない。
そんな物の怪。だからよく驚かれる。
そうそう。彼等の生態で顕著なのは、24時間営業の万屋で買い物をする際に、店員の女子に手が触れられただけで、舞い上がるというものだ。
つくづく馬鹿だなとも思うが、こればかりは仕方がない。
あぁ、職場で事務のお姉さんに声を掛けられても舞い上がる。
ふむ、どうしようもないな。
まぁもっとも。
口がないので、頷くだけなのだが。
寂しいものだな。
さて、それでは彼等にまつわるエピソードを話そうと思う。
※
※
※
「のっぺらぼうと二口女」
いつものごとく勢いよく喋り出す二口女。
「ねぇねぇ。聞いた?総務の課長と磯崎さんのこと」
それに首を軽く左右に振る”のっぺらぼう”。その隙にお茶菓子を摘む二口女。
「不倫してるんだってウ・ワ・サ」
無表情だが内心はビックリしている”のっぺらぼう”。だが二口女には、そんな”のっぺらぼう”の心の中なんて見え見えだ。
「ねぇ、ビックリよねぇ。あ、そうそう。今度の水曜から有休で私、旅行行くんだー」
そのぐらいは知っていると、頷く”のっぺらぼう”。先ほどのお茶菓子がいつの間にやらなくなっている。次のお茶菓子の袋を開け始める二口女。
「ふっふっふー。どこ行くと思う?」
首をフリフリのっぺらぼう。やはりその隙にお茶菓子を口に放り込む二口女。
「パ・リ。おフランスに行・く・の」
頷くのっぺらぼう。やはり先ほど開けたばかりのお茶菓子が、もうなくなっている。喋るか食べるかどっちかにしろよと思うが、そこは二口女。二つを同時に行うのは、お手の物だ。
「あぁ。楽しみぃ。あっ! そうそう私ね。昨日、服買ったんだー」
頷く””のっぺらぼう”。
「それからね……」
ひたすら喋り、ひたすら食べる二口女、ひたすら頷くだけの”のっぺらぼう”。
そして不意に
「ねぇ?聞いてるの?」
一瞬びっくりするが、心外だとばかりに眉間のあたりをひそめて頷く”のっぺらぼう””。
「ふーん。そう。あっそうだ! あのね……」
こうして二匹の妖怪の日々は過ぎていくのだった。
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