二匹の妖怪

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ

二匹の妖怪

昔々のこと。 いや、今の時代もなのだが…… まぁいいや。 二口女という物の怪があった。 一つは表に口があり。もう一つが後頭部に隠されている大きな口。 この物の怪は、現代に置いてもよく見かける。 よく喋り、よく食べるのだ。 さて、そして今回登場するのは、のっぺらぼう。何を隠そう私自身がその物の怪だ。 特徴を話そう。 朝、起きてから夜、寝るまで一度も表情が変わらない物の怪だ。顔がないから当然なのだが…… 居るのか居ないのかもよく分からない。 そんな物の怪。だからよく驚かれる。 そうそう。彼等の生態で顕著なのは、24時間営業の万屋で買い物をする際に、店員の女子に手が触れられただけで、舞い上がるというものだ。 つくづく馬鹿だなとも思うが、こればかりは仕方がない。 あぁ、職場で事務のお姉さんに声を掛けられても舞い上がる。 ふむ、どうしようもないな。 まぁもっとも。 口がないので、頷くだけなのだが。 寂しいものだな。 さて、それでは彼等にまつわるエピソードを話そうと思う。 ※ ※ ※ 「のっぺらぼうと二口女」 いつものごとく勢いよく喋り出す二口女。 「ねぇねぇ。聞いた?総務の課長と磯崎さんのこと」 それに首を軽く左右に振る”のっぺらぼう”。その隙にお茶菓子を摘む二口女。 「不倫してるんだってウ・ワ・サ」 無表情だが内心はビックリしている”のっぺらぼう”。だが二口女には、そんな”のっぺらぼう”の心の中なんて見え見えだ。 「ねぇ、ビックリよねぇ。あ、そうそう。今度の水曜から有休で私、旅行行くんだー」 そのぐらいは知っていると、頷く”のっぺらぼう”。先ほどのお茶菓子がいつの間にやらなくなっている。次のお茶菓子の袋を開け始める二口女。 「ふっふっふー。どこ行くと思う?」 首をフリフリのっぺらぼう。やはりその隙にお茶菓子を口に放り込む二口女。 「パ・リ。おフランスに行・く・の」 頷くのっぺらぼう。やはり先ほど開けたばかりのお茶菓子が、もうなくなっている。喋るか食べるかどっちかにしろよと思うが、そこは二口女。二つを同時に行うのは、お手の物だ。 「あぁ。楽しみぃ。あっ! そうそう私ね。昨日、服買ったんだー」 頷く””のっぺらぼう”。 「それからね……」 ひたすら喋り、ひたすら食べる二口女、ひたすら頷くだけの”のっぺらぼう”。 そして不意に 「ねぇ?聞いてるの?」 一瞬びっくりするが、心外だとばかりに眉間のあたりをひそめて頷く”のっぺらぼう””。 「ふーん。そう。あっそうだ! あのね……」 こうして二匹の妖怪の日々は過ぎていくのだった。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!