仁義なき野球拳[読みきり]

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「そろそろお風呂に入ってよ」  リビングで対戦ゲームをやり込んでいるオレに、妻が言う。 「あとで入るよ」 素っ気なく返事をするが妻は言い返してくる。 「そんなこと言って、昨日も入らなかったでしょ。今すぐ入って」 「だからあとで入るってば、今いいところなんだよ」  HPはレッドゾーンだが、まだ余裕はある。ラスボスを端に追い詰めてハメ技で削っている、確実に勝てる、勝利は時間の問題だ。 「ダメよ、今すぐ入りなさい」  母親のように上から目線のもの言いに、カチンとくる。まだまだ新婚夫婦で妻はひとつ下だ。この先のこともあり主導権を与えたくない。  PAUSEして、妻にいきなりジャンケンを挑んだ。 「ジャーンケン・ポン!!」 ノリのいい妻はすぐに手を出す。オレはチョキ、妻はパーで俺の勝ちだ。 「はい、じゃあ先に入ってね」 妻に勝利してゲームに戻ろうとした時だった。  オレの前に立つと、部屋着のトップを脱ぎTシャツ姿になり、今度は向こうからジャンケンを挑んできた。 「ジャーンケン・ポン!!」 慌てて出した手はグーもどきの格好をしていて、妻はパーだった。 「あたしの勝ちね、さっ、脱いで」 勝ち誇っている妻に、負けじ魂の火がついた。  ゲームをふたたびPAUSEさせると立ち上がり、対峙する。 「今度はオレからだな」 ──休日の夜、わが家で突然、新婚夫婦による野球拳の勝負が始まった──
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