1人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
「そろそろお風呂に入ってよ」
リビングで対戦ゲームをやり込んでいるオレに、妻が言う。
「あとで入るよ」
素っ気なく返事をするが妻は言い返してくる。
「そんなこと言って、昨日も入らなかったでしょ。今すぐ入って」
「だからあとで入るってば、今いいところなんだよ」
HPはレッドゾーンだが、まだ余裕はある。ラスボスを端に追い詰めてハメ技で削っている、確実に勝てる、勝利は時間の問題だ。
「ダメよ、今すぐ入りなさい」
母親のように上から目線のもの言いに、カチンとくる。まだまだ新婚夫婦で妻はひとつ下だ。この先のこともあり主導権を与えたくない。
PAUSEして、妻にいきなりジャンケンを挑んだ。
「ジャーンケン・ポン!!」
ノリのいい妻はすぐに手を出す。オレはチョキ、妻はパーで俺の勝ちだ。
「はい、じゃあ先に入ってね」
妻に勝利してゲームに戻ろうとした時だった。
オレの前に立つと、部屋着のトップを脱ぎTシャツ姿になり、今度は向こうからジャンケンを挑んできた。
「ジャーンケン・ポン!!」
慌てて出した手はグーもどきの格好をしていて、妻はパーだった。
「あたしの勝ちね、さっ、脱いで」
勝ち誇っている妻に、負けじ魂の火がついた。
ゲームをふたたびPAUSEさせると立ち上がり、対峙する。
「今度はオレからだな」
──休日の夜、わが家で突然、新婚夫婦による野球拳の勝負が始まった──
最初のコメントを投稿しよう!