act.3 悠里

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   今日はまだ出雲のお父さんと拓海さんが帰って無いのね。相変わらずお仕事が忙しいのかな、お疲れ様だわ。  そしてすっかり夕食をご馳走になってから、デザートに何故か大きないちごのデコレーションケーキが出て来た。しかも火のついた可愛いキャンドル付き。  え? 「悠里ちゃん、お誕生日おめでとう。バースデーケーキは真也とひかりが作りました〜」  いずも先生が言ってくれる。あ、お兄ちゃんが入院したドタバタで忘れてたわ。今日は4月14日で私とお兄ちゃんと、出雲のお父さんのお誕生日だ! 「ゆーり姉にハッピーバースデーを歌います!」  いきなりリビングに真也くん、ひかりちゃん、鷹くんの三人が整列。 「「「"ハッピーバースデーツーユー、ハッピーバースデーツーユー、ハッピーバースデーディアゆーり"」」」  涙が出る程とても嬉しい可愛いサプライズだ、なんて素敵なハーモニー。動画を撮りたかった! 「みなさん、ありがとうございます…!」  バースデーキャンドルを吹き消して、みんなでパチパチと拍手だ。同じ誕生日のお兄ちゃんと出雲のお父さんがいないのが残念だけど。 「自分の誕生日を忘れていました」  この最近のドタバタでもうすっかり。笑うしか無いな。 「やっぱり?お兄さんの入院騒ぎがあったからそうだと思ったのよ。ほらケーキは別腹だからいっぱい食べてね!」  いずも先生がとても大きくケーキを切り分けてくれた。なんて至福な…!  その日は思いがけずに出雲家で楽しい時間を過ごさせてもらって、私は頂いたお花や新しい絵本、美音さん手作りのアクセサリーに囲まれて泣きたいほど嬉しかった。 「間に合ったか、悠里にプレゼントだ。ファームのヨーグルトとハム・ベーコンのセット」 「わぁ!ありがとうございます拓海さん!!」  帰る間際にちょうど拓海さんが帰宅した。はい、大好物です!ありがとうございます! 「兄貴が帰る前にしっかり食べちまえ、あいつが帰ったら瞬殺されるぞ」 「は〜い!」  大きな箱を差し出された。一度に持って行くのが大変なので、真ちゃんぴーちゃんの仲良し兄妹が駐車場まで持って来てくれた。最後まで至れり尽くせりだ。 「ありがとうね真ちゃんぴーちゃん、今度の土曜日も楽しみにしてるからね」 「うん、ゆーり姉!僕頑張るからね!」 「ぴーちゃんも応援がんばる!」  真ちゃんが出場する合唱コンクールが待ち遠しい。あの天使のような真ちゃんのボーイ・ソプラノを、一度大きな会場で聴いてみたかった。  見送ってくれた出雲家の人達に手を振って、私はかなり幸せな気分で家路に着いた。  優しい人達のお陰で、昼間感じた嫌な気分はどこかに飛んで行ってくれた。 87aec37c-38a1-41d2-80d7-a4eb54705baf
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