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俺がそれに気付いたのは、いつもの仕事中の事だ。
ようやく午前の仕事が落ち着いて、昼休みを貰ったばかりの時だった。
自分と妹の悠里が父親のように慕う時任弁護士から、一通のメールが着信していた。俺は醸造所敷地内の社宅に向かう途中にそれを開く。
メールの内容は俺にとって生涯の天敵とも言えるあの男が急逝したとの事で。俺はそのメールをなんの感慨もなく、ただ確認した。
「死んだか…あのキチガイ」
さすがに口をついて出た。あの男が死のうが生きようが今更なんとも思わないが、あいつがこの世から消えたって事は俺には喜ばしい事実だ。
同じ世界の空気を吸うことすら拒否したかった男だ。いなくなってせいせいした。
俺の妹を傷つけた事は、あいつが死のうが生きようが決して許されない事だからな。
「ふん」
そしてスマホをポケットに戻した瞬間、それが起こった。右の側頭部をいきなりの激痛が襲って来たのだ。
「くっ…!」
まただ、いつもの偏頭痛。でもなんだこれ、いつもよりかなり酷い…!!
目眩もしてる?ヤバい、足元が…!!
その場に膝を付いた、立っていられないくらいフラついてそのまま地面に倒れこんだ。
「龍矢!?どうしたお前っ!?」
離れた所からその声が聞こえた、これは杜氏頭の田村さんだ。ヤバい立たなきゃ…!余計な心配を掛けちまう。
「龍矢!!龍矢!?」
「だ…大丈夫です、いつもの偏頭痛…」
「バカ、真っ青だぞお前!いいからそのままでいろ!!おい、誰か救急車…いや、車持ってこい!!副社長を呼べ!!」
隆成さんまで呼ばれてる、本当に大丈夫ですから…きっともうすぐ治まりますから。
あれ…なんか意識が遠くなる…?
『龍矢』
え…この声、母ちゃん…?なんで母ちゃんが…?
『龍矢お願い、悠里を…』
悠里…?母ちゃんどうしたんだ?なぜそんなに泣きそうな声なんだ?
『悠里をあの男から護って』
「!!」
あいつ…今井のバカ息子のことか、今しがた死んだと聞いたばかりなのに。あいつが何を…!!
「龍矢!!」
俺を気遣う隆成さんの声を聞いたその瞬間に、俺は意識を失った。
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