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翌日病院に着くと、やはり北は朝食を食べていなかった。床頭台に置かれた食事の前に、ぼんやりと座っているだけだ。
「こんなこったろうと思った、ほら」
その膝の上にパンが入った紙袋を置く。北の好きなうちのばあちゃん特製のベーグルサンドやら塩パンだ。ばあちゃんには昨日のうちに頼んでおいた。
「病院食は俺が食うから、お前はそれを食え」
食べ物を無駄にする訳には行かない。俺も朝食は済んでいるが、こんな病院食ぐらい…量は相当少ないな。ご飯と味噌汁と小さな鮭の切り身、それと沢庵2枚で終わり。それと牛乳。病院の朝食なんてこんなもんか。
「出雲」
「良いから食え」
ほら、コーヒーも付けてやるから。
出雲はようやく紙袋を開けて中からベーグルサンドを取り出した。立派なトマトとサニーレタス、スモークサーモン入だ。
「トマトと紫オニオンは真也が作ったもんだ、レタスはじいちゃん。ちゃんと食わなきゃバチが当たるぞ」
「ああ」
とりあえず食え。
北がパンを口に入れたのを見ながら、俺も病院食を一瞬で食べ終わる。味噌汁が超薄かった、確かに健康には良さそうだ。
北は無言でモソモソ食べているだけだが、とりあえず何とかベーグルサンドひとつを食べ終わったようだ。
「もう良いのか?」
「うん、味がしないんだ」
ああ、ショック状態が続いているのか。これ以上は無理だな。
「コーヒーを飲め、それが終わったらこれだ」
麦茶の1.5Lペットボトルを置いておく。とにかく水分だ、今日は見張っているからな。
それを見て北がちょっとだけ苦笑した。俺の気持ちは伝わっているらしい。
「さっきな、朝の検温が終わってすぐに悠里の所に行ったんだ」
きっと昨日はろくに寝られて無かったんだろうな。
「勝手には入れないからずっと部屋の前にいた。そしたら担当ナースが部屋に入れてくれたんだ。薬のせいかやっぱりずっと眠ってるんだけど、時々その口元がお兄ちゃんって俺を呼ぶんだ。そして痛いよって繰り返す。意識はないんだけどな」
それはそれでたまらない…
「それでもあいつの右手が熱いから、その身体の中で悠里が戦ってるのが分かる。あいつは今、必死に生きようとしてるんだ」
「うん」
身体が発熱してるのは悠里の身体が抵抗を続けているからだ。それを見ているだけの北が辛いのは当たり前だけど、それでも北は絶対に逃げない。
きっと一緒に戦っているんだ。
「じゃあお前もしっかりメシを食ってちゃんと元気でいろよ。味なんて感じなくても栄養になれば良いんだから」
「ああ、任せろ」
そう言って北はほんの少しだけ笑おうとした。結果、口の端が引きつった様になっただけだけど。
それでも笑おうとしていた。
妹を待つ決意を俺に伝えていた。
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