act.6 拓海・伴走

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   翌日から北は真波酒造の仕事に戻って行った。  早朝からの出勤は変わらないが、その分早く仕事を上がらせてもらい悠里の病院に行く。  悠里は特に左半身が重症だった。Ⅲ度の火傷以外にもまだ痛みの続く所があり、それがいつまで続くのか見当もつかない。あちこちに皮膚移植が必要だという。  それでも完全に元通りになる事はない。一番酷いのは焼けただれて潰れてしまっている左顔面と左瞼だ。それがこの後の形成手術でいくらかでも開きやすく見やすくなってくれれば良いと思うとの事だった。  そして二ヶ月が過ぎた頃に、ようやく悠里は一般病棟の個室に移った。かすれかすれだが少しずつ声も出るようになった。軽いリハビリも始まっているという。  相変わらず母親の事を口にしていた悠里だったが、ある日返事に詰まった北の困った顔を見て以来、母親の事を何も言わなくなったそうだ。  悠里なりになにか感じるものがあったのだろうか。それとも今も悠里を護っているであろう北の母親が、なにか言い聞かせてくれたのだろうか。  その話を俺に教えてくれた北は、悠里に気を使わせてしまったと落ち込む。今の悠里は小学校低学年なのだから、そんなに聞き分けが良くては可哀想だと。  だが、本当の事を教える事は出来ない。今の悠里にこれ以上のショックは与えられない。  北の苦労する姿を見ながら、俺も何も手伝えないジレンマに落ち込んでいたけれど。
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