act.7 龍矢・希望

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   それからの二ヶ月は割と粛々と進んだ感じだ。  心配していた悠里の左眼瞼の形成手術は成功した、医者が太鼓判を押すほど綺麗に出来上がったそうだ。皮膚移植との同時進行で、わざわざ外科と形成外科の医師が同時に執刀したという。  手術後数日は顔全体が腫れ、痛みも訴えていたがそれでも頑張って流動食を食べていた。そのせいか回復も早かったように思う。  医師の許可が出たからとプリンばかり食べていたのは特別に大目に見た。  そして退院に向け、同時進行で始まっていた本格的なリハビリで奇跡が起こった。悠里が手すりに掴まってではあるが人の手を借りずに立ち上がる事が出来たのだ。  地道な治療とリハビリによる筋力強化の賜物(たまもの)だった。なにより悠里が頑張った。  これで車椅子への移乗やベッド、トイレへの移動が自分で出来るようになると格段にADL(日常生活動作)が上がる。悠里も出来ることが増えて楽になれる。  その報告を悠里から聞いた時、俺は悠里が心配する程号泣してしまった。  あとから出雲に報告しながら、美音さんも一緒に三人でやはり泣いた。お母さんや薔子さんもとても喜んでくれた。  お祝いにと悠里の為に焼かれたパウンドケーキを病室に持って来ると、悠里が一瞬不思議な顔をした。  以前は自分もしょっちゅう焼いていたそのケーキに見覚えがあるのか、悠里はしばらくそれを食べもせずじっと眺めていた。  少しでもなにか思い出す事があれば良いのだけれど。  やっと物事がいい方に進み始めた始めた様な気がした。  宮城野渓大付属病院への転院まで、あと三日に迫っていた。  
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