act.8 拓海・初秋

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   悠里が仙台に向かうその当日の朝、北の方から悠里を美音に会わせて欲しい、と言われた。  悠里が大事にしているいずも先生の絵本を、沢山くれたお姉さんにお礼が言いたいと言い出したと。  悠里の記憶にある9才当時の自分は、そんなに沢山の絵本を持っていなかった筈だから。  不思議に思った悠里が北に聞いてきたという。そんな事に気がつけるようになった事は、悠里の中でもすごい進歩だ。  北は「兄ちゃんの友達の奥さんで、優しいお姉さんが悠里にプレゼントしてくれた」と教えたという。  そうしたら悠里が自分で「ありがとう」が言いたいと言い出したらしい。これも凄い進歩だ、顔も知らないはずの「お姉さん」に会ってみようという気持ちが起こるなんて、これもいずも先生の絵本のおかげだと北は言う。  きっと幼い悠里が絵本から学んだ気遣いや思いやり、感謝の気持ちを思い出しているんだと嬉しそうだった。  仙台へは北の車で直接行くから、その途中でこの家に立ち寄って美音に会わせられたらありがたいと。勿論、俺にも美音にも異論は無い。  ただ母ちゃんが「私も会いたいのに〜作者なのに〜!」とジタバタ騒いでいたが。  悠里が混乱するといけないから、今回はパスだ。  母ちゃんはパジャマもいっぱい作ったのにとグズグズ泣きながら、それでも二人に渡す弁当を作る準備に戻って行った。  俺も本当は病院まで行って悠里と北を影ながら見送る筈で、仕事も半休取っていたが予定を変更。  自宅で二人を待つ事にした。
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